運がわるい

福守りん

運がわるい

 つい、さっきのこと。

 踏切の前のちょっとした段差に、靴をとられた。遅刻を気にして、いそぎすぎたせいだと思う。

 膝から、けっこう勢いよく、地面に転んだ。

 目の前にあったマンホールのふたには、七つの星が刻まれていた。


 七星ななほし市。それが、おれの住んでる街の名前だ。

 学生たちの間では、ラッキーセブンか、セブンスターと呼ばれることが多い。七星市と呼ぶよりも、字数が多くなってるが、そのことは、あまり気にされることはない。

 ラッキーセブンというのは、もともとは、アメリカで生まれた言葉だ。

 130年ほど前の、アメリカのプロ野球の試合。七回目の攻撃で、フライがホームランになった。風のおかげらしい。

 たったそれだけで?と思うが、今では、日本で暮らす、おれみたいなふつうの高校生ですら、常識として知る言葉になった。

 ちなみに、この話は、七星市の観光ガイドの14頁目に載ってるので、気になる人は、読んでみるのもいいと思う。

 セブンスターのほうは、説明の必要はないと思う。

 七星を英語に直訳しただけだし、有名なたばこの銘柄のひとつでもある。


 問題は、この、神に祝福されたような、おめでたい街に住んでるおれが、あまり運がよくないってことだ。

 あまりどころじゃない。ぜんぜん、運がよくない。

 登校の途中で転ぶのは、しょっちゅうだし、愛用のメガネを踏みぬいたのは、これまでに計四回。中学校に上がる前に、母さんがきれて、そこから、コンタクトレンズになった。

 彼女はいない。彼女ができそうになると、なぜか、ぽっと現れたようなライバルが、いつのまにか、おれのかわりに彼氏になっている。

 たぶん、おれは、発達障害なのかもしれない。

 忘れものが多い。約束を忘れることも多い。

 とうぜん、怒られることも多い。


 これまでに、何度か、お祓いを受けたことがある。

 おれを心配して、親戚のおばさんが受けさせてくれた。

 効くと有名な七星神社でのお祓いは、効果があったようには感じられない。


 まあでも、いいんだ……。

 最近では、ひらきなおってる。

 もしかしたら、おれは、なにか大きな存在によって、おれ以外の人々に代わって、厄を引きよせてるのかもしれない。

 おれの運がわるいことで、誰かが、救われてるのかもしれない。

 そう思わないと、正直やってられない。


 おれの名前は、運川うんがわるい

 運がわるいのは、この名前のせいなんじゃねーかな……。

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運がわるい 福守りん @fuku_rin

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