【KAC20236】 ラッキー7 Case: C

下東 良雄

ラッキー7 Case: C

 小さな頃から気が弱かった。

 心藍ココアというキラキラネームでイジメられた。

 その場ではヘラヘラ笑い、家に帰って泣いていた。


 中学生になって、どんどん胸が大きくなっていった。

 揺れる胸を見て男子が笑っていると知った。

 その場ではヤ〜ネェと笑い、家に帰って泣いていた。


 高校デビューして、気の弱い自分を変えたい。

 ふたりの友達に合わせ、肌を焼き、長い髪を銀色に染める。

 パパもママも驚いていたけど、私の思いを理解してくれた。


 四月、高校入学。

 クラスで浮いていた。

 新しい友達はできなかった。


 五月、初めて友達ができた。

 そばかすのある小柄な女の子。

 暖かい気持ちが心を包んだ。


 でも


 六月、嘘の噂が広まっていった。

 学校中の男子が私を『ヤリマン』と呼んだ。

 それがどれだけ女の子の心を傷つける言葉なのか知らずに。


 そして、七月。

 噂を真に受けた三年生に乱暴されかけた。

 泣くことしかできなかった。


 不運な七月、最低な七月、最悪な七月


 噂の影響が及ばないように、友達を捨てるつもりだった。

 夏休み、それは友達と過ごす最後の時間。

 そのはずだった。


「オマエのことは、オレが絶対に守る」


 私のために本気で怒ってくれたひとりの男子。

 彼は、会話する時に大きな胸を見てこない。

 彼は、外見や噂だけで判断しない。

 彼は、こんな私を壊れ物のように大切に扱ってくれる。


「オマエ守るためなら、何でもやるから」


 二学期、彼が教室で三年生に掴みかかる動画が学校中に広まる。

 彼は教壇に上がり、三年生へ必死に訴えていた。


「噂はすべてウソです。その噂のせいで彼女は大変苦しんでいます」


 涙が止まらなかった。

 私の心を彼が占めていく。


 彼が好きな子は、あのそばかすの小柄な子。

 分かってる、邪魔もしない。

 それでも、彼を好きになる気持ちは止められなかった。


 酷い目にあった不運な七月。

 彼と関係を深めるきっかけになった幸運な七月。

 私の心に淡い想いが宿った、初恋の夏。


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