呪いは続くよどこまでも

御剣ひかる

呪われないための名づけのはずが

 荒木瀬文せぶんは悩んでいた。

 産まれてくる自分の男の子になんと名付けようか、と。

 彼にとって、いや、荒木家にとって男児の名前はとても重要なのだ。

 瀬文の祖父などは、妻のおなかの子が男の子と判った日から、その子が順調に産まれてきて出生届の期限ぎりぎりまで悩み抜いた。


 なぜそこまで悩むのか。それは瀬文の五代前の爺が「やらかして」しまったからだ。


 なんでも、地元では有名な「呪い岩」と呼ばれていた岩の注連縄しめなわを子供のころに悪戯で傷つけてしまったのだそうだ。


『貴様の子々孫々まで不幸に落としてやる』


 岩からそんな声が聞こえたが、当時は全く気にかけていなかった。

 だが、子供も孫も、名前に関する物事でことごとく不幸が訪れるようになったのだ。


 爺の子のたかしは高い所で不幸な目にあうし、孫のはじめは月のはじめ、年の初めに不幸に見舞われる。

 転んだり、財布を落としたりは当たり前。仕事で大きなミスをしてボーナスカット、ということもあった。


 どれも命に係わるようなものでないのは、おそらく「子々孫々」まで呪うために手加減されているのだろう。

 それに気づいた発端の爺は体が動く限り「呪い岩」にお参りをした。

 しかし許されなかったようだ。荒木家の不幸はまだ続いている。


 何度か引っ越しもしたが、それでも呪いはついてきている。

 代々呪うというならばと父は独身を貫こうとしたらしいが、得意先の社長からの紹介で断るに断れず結婚したそうだ。


「それで、あなたのお父さんはあなたにラッキーセブンから取って瀬文ってつけたのよね」


 妻がもう何度も聞かされた夫の名前の由来を言う。


「そう、名前が不幸につながるなら、あ“らき せぶん”でラッキーセブンにならないか、ってさ。そんなの、七のつく関連で不幸になるって簡単に想像できそうなもんだけどな」


 瀬文はやれやれとため息をついた。


「むしろアンラッキーセブンになっちゃったわね。……あ、気をつけて、もうすぐ七時だから」

「うん、出勤時間まで部屋にこもって子供の名前を考えておくよ」


 朝、早めに起きて支度をし、七時台は自室に引っ込んで何もしないのがもはや瀬文の日課だった。


 結局、子供の名前はれんとした。はすに近づかなければいいといのは比較的実行しやすいと考えられるし、最近の流行りにもあっていると考えたのだ。


「できるだけ不幸のない人生であってほしいな」

「そうならないようにわたし達もがんばっていかないとね」


 産まれたての我が子を見て、瀬文と妻はうなずき合った。




 蓮が産まれてすぐに、彼らの住む地域名を統廃合により「蓮池」と変更することが決定された。

 荒木家への呪いは、まだまだ続きそうだ。

 真のアンラッキーセブンは、呪いの原因を作った男から数えて七代目の蓮なのかもしれない。



(了)

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