今日のアンラッキーナンバーは7

いずも

ラッキーガール

『――獅子座のアナタ! 今日のラッキーカラーは”紫”! 紫色を身に着けたラッキーガールに大変身しちゃいましょう』

 テレビから聞こえる星座占いの結果を聞き流しながら朝の支度をする。

 私は占いを信じる方ではないからいつもは聞き流すのだけど、何故か耳に残った。おそらくアナウンサーが変わったのだろう。

 時間的にはもう終わり際だし、一位の発表をして最下位の発表で終わる流れ。

 あれ、今のどっちだろ。ああもう、結果に興味は無いよ、無いんだけどね。


『――ラッキーナンバーは”7”! 今日も一日頑張って』

 やっば、もう時間だ。

 流れ的に最下位だよね。いやどうでもいいよ? 占いなんて信じてないから。

 占いなんて関係なく、今日の私は無敵のラッキーガールなのだ。なんせ推しのK-POPアイドルのライブに当選したのだから。推しのキーホルダーを付けた通勤カバンを肩に掛け、意気揚々と家を出る。



「だーっ! 待って待って待って~!」

 扉は締まり、無情にも電車は出発する。やっば、一本乗り過ごし決定。この7時37分発に乗れなかったらいつものコンビニで朝食を買う余裕がない。チケットの支払期日が今日中だからついでに済ませちゃおうと思ってたのに。ああもう、最悪。


 待てど暮らせど次の電車が来ない。不審に思ってたら構内アナウンスで『人身事故により電車の到着が遅れています――』の声で民族大移動開始。言うのが遅いっての!

 ああもう、これじゃ別の路線で向かった方が早い。私も遊牧ノマド民の仲間入りっと。



 オフィスに着いてからも散々だった。私の職場は7階にあるけれど、エレベーターが故障して動かない。遠回りして歩かされたのに今度は階段トレーニング!?

 グロッキーな顔してるお仲間発見。てかウチの社員じゃん。


「やっほー。今日はのんびり出社だねー」

「あんたこそ。37分の電車じゃなかったんだ」

「乗り過ごしたら次の電車が来なくて違う路線で来た」

「あー、運が良かったね」

「なして?」

「人身事故でしばらく電車が止まってたのよ。あたしちょうど電車に乗ってたから、すし詰め状態でもみくちゃにされて酷い目に遭ったわ」

「これからさらに酷い目に遭わされますぞー」

「エレベーター故障しちゃってるもんねー……。でも時間通りに到着してたら閉じ込められてたかもよ? 今朝故障したらしいし」

「ふーん」

 こちとら不運続きだっつーの。星座占い? いやどうでもいいし。



 昼休みにいつものコンビニへ行くと物々しい雰囲気とともにバリケードで入り口が封鎖されている。警察にテレビ局のカメラも来てるし、どうしたんだろ。

「こちらが被害に遭ったセブンイレブンです。今朝強盗に押し入られ、従業員と客二人が刃物で刺され負傷しました」

 アナウンサーが淡々と事件当時の状況を解説する。

 いつも通りに出勤していたら事件に巻き込まれた可能性があったみたい。物騒な世の中と呟いて、心の中じゃ別の店舗に行かなきゃならんのダルーってため息をつく。


「あれ? あれあれ? なんで?」

 チケットの支払番号を入れても出てこない。スマホで確認するのが面倒だから紙にメモしたんだけど書き間違えたのかな。うわ、めっちゃ後ろ待たせてる。ああもう、どうぞどうぞ。私は無神経なおばさんみたいに図々しい行動は取れない。

 やっぱり番号書き間違えてた。数字が一桁足りなかったけど、それが”7”が抜けてたなんて出来すぎた話。いやいやどうしたラッキーガール。今日はアンラッキーガールじゃんなんて、一人で笑う。

 仕方ない、仕事終わりにまた寄ろう。


「あははー、そりゃ災難だったね」

「笑い事じゃないよ。確か七号線沿いにセブンあったよね、帰りに寄ろっかな」

 まともに食事が取れなかったらおやつ休憩くらい良いよねって感じで、買ってきたまるごとバナナを食べながら隣の席の子に愚痴る。


「おーい、急いでこの書類7部コピーしてくれー」

「わかりましっ、げっ!」

 急に立ち上がったらクリームがこぼれて服にべったり。ああもう、最悪。何なの、”7”の呪い? バナナですら発動すんの?



 仕事が終わって着替えながら制服を見返す……ああもう、やっぱりシミになってるしクリーニングに出さなきゃダメかー。今日はツイてない一日だった。占いなんて信じないけど、信じないけどさー……。


 クリーニング屋に寄った後、外に出ると救急車とパトカーが矢継ぎ早に駆け抜けていく。事故でもあったのだろう。

 車を見送っていると着信があった。


「はいはい、どうしたの?」

「あっ、何ともない? 無事だった!?」

「えっなに、どうしたの」

「帰りにセブン寄るって言ってたでしょ。あんたが行きそうな店舗に車が突っ込んだってSNSで話題になってたから大丈夫かと心配になって」

 そんなことって、ある?



 ようやくコンビニに立ち寄ってチケットの払込番号を入力……するもまたもやエラー。いやいやおかしいっしょ。今度はちゃんとスマホで画面開けてばっちり確認してるんですけど! 店員さん、どういうこと!?


「あー……これ、販売停止になってますね」

「え?」

「このプロモ会社、詐欺でニュースになってたんですよ。有名なアーティストが来日するってお金を集めて実際にはドタキャンってことにして返金に応じない手口の詐欺だって。もしお金払ってたら返ってこなかったかも」

 ちょっと待って。じゃあライブで来日するのは嘘? 超高倍率のライブに当選して喜んでたのに、全部なかったことにされたってこと? ああもう、最悪ってもう言い飽きた。



 店を出ると世界が揺れる。あまりのショックに目眩がした、ってわけじゃない。本当の地震だ。徐々に揺れが大きくなって――止まった。さすがに震度7の地震発生なんて洒落になんない。

 今日はまったくツイてない。余計なことはせずさっさと帰ろうって歩き出す。


「危ないっ!」

「えっ」

 急に後ろに引っ張られる。驚いてよろついていると何かが上から落ちてきて、音を立てて割れる。植木鉢だ。


「さっきの地震でマンションのベランダから植木鉢が落ちてきたんだ」

 声の主は私を引っ張った張本人。

「あ、ありがとうございます」

「いいさ、アンタはラッキーガールだからね」

「へ? いや、私なんて今日は星座占いも最下位だし、一日中ツイてないっていうか……ラッキーナンバーは7だなんて、ラッキーどころかアンラッキーセブンの日でしたし」

「ん、アンタ獅子座生まれ?」

「ええ。朝の占い最下位でしたよね」

「いやいや、今日から順番が変わって最後に一位を発表してたよ。だから獅子座が一位さ」

 え、うそ。

 本当に?


「――あっはっはっ、逆にツイてるってそれ!」

 私の今日一日の出来事を話すと彼女は笑いながらそう言った。

「むしろ”7”に愛されてるじゃん」

「そうかも、しれませんね。そういえばさっきラッキーガールって」

「ああ、それそれ」

 彼女が指さしたのは私のカバンにぶら下げているキーホルダー。推しのカラーである紫色。そういえば、ラッキカラーが紫だっけ。


「確かに私自身がラッキーガールだったのかも」

「ラッキーカラーは紫色だからね」

「それだけじゃないんです」

「ん?」

 何を言ってるんだ、って顔でこちらを見る。


「――私の名前、ナナって言うんです」

 そう言うと彼女は笑う。偶然にしちゃ出来すぎた話だ。

 占いなんて信じないけど、少しだけ信じてみるのも悪くないのかも。


 彼女は再びひとしきり笑い、にんまりと私を見る。

「へぇ、アンタもナナって言うんだ。――アタシもナナって言うんだ」


 これは、物語の始まりかもしれないし、何も始まらない物語かもしれない。

 ただ一つ言えるのは、私は占いを少しだけちゃんと見るようになるだろうってこと。

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