Mission3 メイドの会話からヒントを

『先程は突然だったのに、来てくださってありがとう存じます』

『すごい丁寧だねw 大丈夫だよ!

 ところで、君の名前って何? 俺は、音宮鳴子っていうんだ~』

『私は氷室文那と申します』

『氷室さんか。よろしくね!』


「ふ……ふふふ……」


 わたくしはベッドの上に寝転びながら、思わず笑い声を漏らしました。部屋にいたメイドたちが肩を震わせましたが、わたくしは構いません。


 高校生になってから、初めて人と連絡先を交換しましたわ……!! それにこうして仲良くなることで、安眠を手に入れることにも一歩近づきましたの……!!


『なるこ』


 表示されているその名前を、指先で撫でました。音宮さん……いえ、先輩。音宮おとみや鳴子なるこ先輩……名前までとても美しいですわ。


 何度か連絡をやり取りし、分かったことがあります。彼は音宮鳴子。わたくしより1つ年上の、2年生。部活には所属しておらず、代わりに放送委員会に所属していますわ。そして次期委員長候補だとか……。

 確かにあの声は放送にうってつけですわ。たちまち心地よくなってしまうのは間違いなし……。


 ……ですが、声だけではわたくしは眠くなりませんわ。確かにウトウトはしますが。この前みたく、眠りへの導入となることはない……。あの歌声こそに、何かわたくしの睡眠のためになる秘訣が……?


 ……わたくしの睡眠のためですもの。きちんと調査をしなければ。


 そろそろ夕食の時間ですわね、と思い至り、わたくしは体を起こし、廊下に出ます。……するとそこでは。


「私の彼が~~~~」

「えっ、そうなんだ~」


 メイドたちが雑談に勤しんでいましたわ。……この者たち、話に夢中になるあまり、わたくしが部屋を出たことに気づいていないようね。


 ……まあ、なんたる職務怠慢!! わたくしより長く生きているでしょうに……社会人の風上にも置けませんわね!!


 苛つきはあっという間に頂点に達し、その衝動のまま口を開きかけ……。



「それで彼ったら、『お前と一時いっときだって離れたくない』って甘えてくるから~、もう私困っちゃって~」



 それを聞き、わたくしは言いかけた言葉を飲み込みました。



「え~、マユコの彼氏、めっちゃマユコのこと大好きじゃん!!」

「甘えてもらえるの、いいね~!!」

「そうそう! もうほんっとうに可愛いの~!!」


 メイドたちの声色は、とても明るいものでした。……女性というものは、恋バナが好きなものであるようですからね……。

 ……いえ、それより。



 ──これだ!!!!



 わたくしは、そう確信しましたわ。



 どうやら殿方はお相手の方にメロメロになってしまうと、一瞬たりとも離れたくない──……そのように思うみたいですわね。


 でしたら音宮先輩には、わたくしに惚れてもらえば宜しいんじゃなくって?


 そうすれば彼は、片時もわたくしの傍を離れない。わたくしがお願いをすれば、きっとまたあの歌を歌ってくださることでしょう……!! これでわたくしは、眠りたいと思った時に眠ることが出来る……。流石はわたくし、ナイスアイディアですわ!!


「ふ……ふふふ……」


 わたくしは思わず笑みを零します。その様子にメイドたちは訝しげな表情で振り返り……。


「おっ……お嬢様!?」

「もっ、申し訳ありません!! 話に夢中になってしまい……!!」


 わたくしに怯えた様子のメイドたち。いつもなら、そのおどおどした様子にも苛ついてしまっていたでしょう。しかし今のわたくしは違うのです。


「いえ、雑談によりリラックスをするのは、とても良いことですわ。わたくしのことは気にせず、そのままになさい。今、貴方たちに頼みたい仕事もありませんからね」


 わたくしは夕食を摂りますので、ごきげんよう。そう告げると、わたくしは華麗にその場を去りました。


 さて、そうと決まれば作戦を立てねばなりませんね。夕食を摂ったら、すぐに部屋に戻りましょう!! ……ああ、忙しくなってきましたわ!!




 スキップで廊下を進むわたくしの様子を見たメイドたちは、顔を見合わせ。


「……なんかお嬢様、機嫌良かったね」

「なんか良いことでもあったのかな?」

「ねー」

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