ななは縁起が悪いから

玄栖佳純

第1話 ななつ

 いまこそ7はラッキーと言われているが、昔々の7は縁起の悪い数字だった。

これは7がまだ不吉と言われていた頃の話。


 夕闇迫る村はずれで、三人の子供が遊んでいた。

 着物と草履の昔の子供たちだった。


「ひとーつ」

 子供が叫びながら一歩前に出る。

「ふたーつ」

 隣にいた子供が叫んで一歩前に出る。

「みっつ」

 三人目の子供が叫んでその隣に行く。


「よっつ」

 一番初めの子供が続きを叫んで一歩前へ。

「いつつ」

 その隣の子供が続きを叫んで一歩前に。

「むっつ」

 三人目の子供が叫んでその隣に行く。


「やっつ」

 はじめに数えだした子供がひとつ飛ばして叫んで一歩前に進む。

「ここのつ」

 隣にいた子供が何事もなかったかのように数えて一歩前に進む。

「とお」

 三人目の子供が叫んでその隣に行く。


 そしてひとりめの子供がポケットから石を取り出して地面に置く。

 河原で拾った丸くて平べったい石。なんの変哲もない灰色の石。


「ひとーつ」

 子供が叫びながら一歩前に出る。

「ふたーつ」

 隣にいた子供が叫んで一歩前に出る。

「みっつ」

 三人目の子供が叫んでその隣に行く。


「よっつ」

 一番初めの子供が続きを叫んで一歩前へ。

「いつつ」

 その隣の子供が続きを叫んで一歩前に。

「むっつ」

 三人目の子供が叫んでその隣に行く。


「やっつ」

 はじめに数えだした子供がひとつ飛ばして叫んで一歩前に進む。

「ここのつ」

 隣にいた子供が何事もなかったかのように数えて一歩前に進む。

「とお」

 三人目の子供が叫んでその隣に行く。


 そして次の子供がポケットから石を取り出して地面に置く。

 河原で拾った丸くて平べったい石。なんの変哲もない灰色の石。


「ねえ、何してるの?」

 それを見ていた小吉こきちが声をかける。

「数を数えているんだ」

 はじめの子供が答える。


「なんで『ななつ』を言わないの?」

「ワシらは三人だから、『ななつ』があると『とお』を言う者がいなくなる」


「いちばんはじめの子が言えばいいんじゃないの?」

 それまで順番に数えていたのだから、素直に次の子供が言えばいいのではないかと小吉は思った。

「なんでワシがそんな面倒なことをしなければならないんだ?」

 はじめの子供が迷惑そうに言う。


「数を数えるのは面倒じゃないの?」

「面倒じゃない」

 三人は勢いよく首を縦に振る。 


「なんで『ななつ』を言わないの?」

「それはさっき言っただろう?」

 小吉は首を振る。

「他の数字を飛ばしても、とおを言う者はいるよ。ひとつでもふたつでもいいのに、どうして『ななつ』なの?」

 小吉の言葉を聞いて、三人はそれぞれの顔を見る。


「ななは縁起が悪いから」

「そうだそうだ。縁起が悪い」

「だからななを飛ばすんだ」

 そして三人はまた数をかぞえる。


 三人目が「とお」と言うと、三人目がポケットから平べったくて丸い石を地面に置く。三人の後ろには、通った道がわかる程に点々と、石がたくさん置かれていた。

 同じように平べったい丸い石が、等間隔にずっと並んでいた。


 小吉には三人が何をしているのか、聞いてみてもわからなかった。

「ななは縁起が悪いのか?」

 数えるのを飛ばしてしまう程、縁起が悪いとは思えなかった。


「ふつうに数えてもいいのに」

 暗くなってきたので、小吉は家に帰った。


 小吉は7が怖くなった。

 7という数字を見たり聞いたりすると、夕暮れの中、7を飛ばして数えている三人を思い出す。



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