UNLUCKY SEVEN SAMURAI

高村 樹

七人の侍

戦国時代末期のとある山間の農村。

村人たちは、戦によりあぶれて野盗と化した野武士たちに苦しめられていた。


野武士たちは山に砦を築き、近隣の街道に現れては追い剥ぎや物取りなどをして生計を立てていたが、それでは飽き足らず村に、米の収穫の半分を納めるように要求してきた。


野武士たちは五十人ほど。


事態を重く見た農民たちは、代官に村を守ってほしいと願い出たが、野武士の数を聞いて恐れをなしてしまった。


弱腰の代官などあてにはならぬ。


農民たちは独自に侍を雇い、村を守ってもらうことを思いついた。


幸いにしてこの村は、収穫量が多く、野武士たちに収穫量の半分を奪われるようなことさえなければ、年貢を納めても割合豊かに暮らしていける状況だった。


雇う侍たちに提示する条件は村に滞在中は米をたらふく食って良いというものだった。


人間一人、いかに腹いっぱい食おうともたかが知れている。

収穫量の半分を奪われるよりはよっぽどマシである


戦続きで主家を失った食い詰め浪人はたくさんいたので、この条件でも十分、人手は集まると思われていた。


しかし、宿場町など巡り歩き、野武士たちに要求されていた日の四日前までに、確保できた侍の数は七人。


思った以上に侍たちは意気地がなく、「そのような報酬で命がはれるか」と断られることが多かった。



五十人対七人では勝負にならないが、何も野武士たちを壊滅させるわけではない。

村民一同一丸となって、七人の侍たちと共に戦えば、要求を撥ね退けることは十分に可能だと農民たちは考えた。



村を守るために集まった七人の侍の世話をすることになったのは、弥兵衛という農民だった。


弥兵衛は村長むらおさの三男坊で、体格が良く、飯炊きが上手だった。

流行り病で家主が死に空き家となった家屋に、七人の侍たちを住ませ、身の回りの世話をするのが弥兵衛の仕事だった。


七人の侍たちがやってきて二日目の夜。

同じ屋根の下、寝泊まりしていることもあって、侍たちもだいぶ打ち解けてきたようで、酒盛りもだいぶ盛り上がっていた。


干し柿と追加の酒を取りに行って帰ってきた矢先、弥兵衛はいけないことだとわかりつつも、侍たちがいったいどのような人物たちか知りたくなって、つい話を盗み聞きしてしまった。


壁を背にかがんで聞き耳を立てる。


侍たちはだいぶ酒が入っており、気が付く素振りはない。

声が大きくなっているので、少し離れた場所からもしっかり話の内容が聞こえるのだ。


「はっはっはっ、しかしこの村で採れる米はうまいな。飯の焚き方がなかなかに俺好みだ。酒もいい」


どうやら、待遇面では不満を持っていないようだ。

しかも、俺が炊いた飯は気に入ってもらえたらしく、悪い気はしない。


侍たちはその後もしばらくとりとめのない話を続けたが、次第に互いの身の上話に話題が移っていった。


「うう、わかりますぞ。主君を失った悲しみ。儂なぞは仕える主君、仕える主君皆討ち死にしてしまって、全部で六人の主君を渡り歩きました」


「なんと、六人も!それで今日まで生き永らえたのはまこと運が良い」


このような村に、食料目当てに集まって来る者たちなので、侍とはいっても皆ろくでもない状況のようだ。

身の上話がついには不幸自慢大会の様相を見せ始める。


主家を裏切り、内通していたのがバレて出奔した者。

戦に敗れ、落人になった挙句に各地を転々と逃れてきた者。


中には武士を名乗っているだけで、本当は農地を手放し逃げた農民であることが発覚した者までいた。


いずれも金に困っており、籠手、額当、腹巻、腹当などの防具も持っておらず、刀まで竹光になっている者までいた。


おいおい、これでは戦にならんのではないかと弥兵衛は少し心配になってきた。


「それでお前たち、今後どうする気だ?」


一番年長の侍がうろんな様子で他の侍たちに尋ねた。


今後どうするとは、明後日の戦の段取りのことだろうか?


「どうするとはどういう意味だ?」


「いつ、おさらばするのかと聞いておるのだ」


なんだと、戦を前に逃げ出すというのか。


「おぬしたち、まさか野武士たちと一戦交える気ではあるまいな。正気の沙汰ではないぞ。俺はこう見えて鼻が利くのだ。戦えば間違いなく、死ぬぞ。一人として助からん」


「しかし、これだけ歓待を受けて、何もしないというのも……」


「いいか。六人の主君を失っても儂が生き残ってこれたのは、ここがいいからだ。風向きが危うければ逃げる。これは恥ではない。戦って死にたい奴は残ってもかまわんが、儂は明日の晩にはこの村を出る」


とんでもないことを聞いてしまった。

あまりのことに足元がおぼつかなくなり、立ち上がる時に、つい物音を立ててしまった。


「誰だ!」


障子が勢いよく開き、険しい形相で侍たちが顔を出す。


「弥兵衛でさあ。酒のお代わりと干し柿を持ってまいりました」


声が震えそうになるのを必死にこらえ、弥兵衛は平静を装う。


そのまま、中に上がり込み、何食わぬ顔で酒を注ぎ、侍たちが酔いつぶれてしまうまで相手をした。



夜明け前、弥兵衛から話を聞いた農民たちが鍬や鎌をそれぞれ手に持ち、侍たちの寝泊まりしている家屋を取り囲んでいた。


弥兵衛が侍たちの得物を持ち出したため、連中は丸腰だ。


如何に侍とは言えども、酒に酔い、刀なしでは赤子同然であった。




二日後、野武士たちは村を訪れ唖然とした。


村の入り口に晒されていたのは七人の侍の首。


その周りには木杭に全身貫かれた首のない死体が七つ打ち立てられており、ただならぬ雰囲気であった。


野武士たちはさすがにあきらめたりはしなかったが、気圧されたのか乱暴狼藉などをすることは無く、当初の約束のさらに半分の米しか奪ってはいかなかった。



農民たちはこのことに安堵し、七人の侍の死体を手厚く埋葬することにした。



後にこの村の名は、として後の世に語り継がれることになり、誰もが知るあの探偵小説のモチーフになったのである(大嘘)。





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