七香の願いごと

坂本 光陽

七香の願いごと


 七香を一言で表現すると、「真面目」である。


 小学生の頃から、ずっとそうだった。言われたことはキチンと守る。決まりごとやルールは絶対に破らない。廊下にゴミが落ちていたら必ず拾う。横断歩道では右手を上げるし、自転車の二人乗りは決してしない。


 真面目に勉学に励むので、つねに成績はトップクラス。先生や同級生からの信頼もあつく、毎年のように級長に推薦され、小中高と生徒会長を任されてきた。まるで絵にかいたような優等生である。


 それは女子大学生になった今も変わらない。

 しかも、七香にはユニークな特性があった。


 運がいいのである。懸賞や抽選を当てたことは数知れず。プレミアチケットを手に入れることなど、日常茶飯事だった。


 もしかしたら、無欲の勝利なのかもしれない。七香が勝とうとしなくても、じゃんけんをすると勝ってしまう。あろうことか相手に後出しをさせても勝ってしまうのだ。


 いつからか、七香は「ラッキー7」と呼ばれるようになっていた。


 運の良さは、七香のコンプレックスでもあった。運に関しては、せめて人並でありたいと思っていたらしい。贅沢な悩みではあるが、七香の人の良さは、さらに上を行く。


 夜になると星空に手を合わせて、

「私のもっている幸運を不幸な人たちにわけてあげてください」と願っていたのである。


 その願いは聞き入れられた。


 ある夜、神の使いがあらわれて、深々と頭を下げたのだ。七香の幸運は神様のケアレスミスであり、日本中の幸運が七香一人にもたらされていたらしい。


 神様の迅速な処置によって、七香の幸運はきれいに消失した。それどころか、これまでの幸運を返却するような揺り戻しに見舞われることになった。


 つまり、七香は「アンラッキー7」に転落したのだが、その現状を喜んで受け入れている。


 なぜなら、七香一人だけの幸運よりも、大勢の人が幸運になってくれた方が、はるかにベターだからである。



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