七つ葉のクローバー

つばきとよたろう

第1話 七つ葉のクローバー

 てんとう虫がぼくの指先に止まって、それから精密機械のような小さな羽を広げると、勢い良く飛び立った。ぼくは、その一部始終からじっと目を離さなかった。それが秘密の暗号を解くみたいに、熱を込めて見ていた。犬の散歩道にある川原で、普通では見つけられない葉っぱを探していた。


 サイコロを振ると、六の目の真ん中に赤い血の一滴が付いた面が出た。

「七が出た」

 宮地いるが、世界の法則を見つけたくらいに目を輝かせた。

「なしなし、今のなし。六が一番上だろう」

 居残さわるが手を振って、否定した。

「誰の血だ?」

「誰も血なんか出してないよ」

 ぼくと友達は、誰がそれを探してくるか決めていた。ちょっとしたゲームのつもりだった。負けた者が、言われた物を絶対用意してくる。それが偶然が重ならなければ、見つけられない物であったとしてもだ。


 自動販売機の当たりが続く。

「おい、これ壊れているぞ。七本目だ」

「そのくらいにしておけ」

 股の間から覗く虹は、神秘的で綺麗だった。

 数字の揃った消印の押された葉書。


 大吉のおみくじを七枚集める。

「大吉だ」

「大吉だ」

「小吉」

「どうするんだよ。お金持ってないぞ」

「そうだ。枝に結び付けてある、おみくじを取ればいいんだよ」

「大丈夫かな。そんな事して、罰が当たらない?」

「大丈夫だよ」


「そんな物送って、どうするんだ」

 それは特別な暗示を記している。七つ葉のクローバー。

「接着剤で作ったんだろ」

「違うよ。ちゃんと見つけたんだ。コロと一緒にね」

 ぼくは不安を拭うくらいに、激しく首を振った。

「コロ?」

「犬の名前だよ」

「まあいい。これで贈り物は全部揃った。後は、誰が渡す?」

「そっと机の中に入れておけばいいさ」

「それで気付くかな」

「でも、どうしてこんな事するの?」

 ぼくは集めてきた物を確認した。

「一生分の幸運を使い果たすのさ」

 その日、その女の子は学校に来なかった。それからもずっと。

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七つ葉のクローバー つばきとよたろう @tubaki10

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