みんな失踪してしまう
ゴオルド
終わりを告げる電話
いつもの焼き鳥屋で、川村は焼酎のお湯割りを飲みながら、こんなことを言った。
「アンラッキー
「なんだそりゃ。オカルト話か?」
幼馴染みの川村は子供のころから、ありもしない話を面白おかしく語るのが大好きなやつだった。昔は俺も一緒になって盛り上がったものだが、さすがに50代にもなると、怪談だの都市伝説だのといったものに対する興味をなくしてしまった。だが、このいまだ少年の心を持ち続ける旧友はオカルト好きを引退する気はないらしい。
川村はわざとらしく周囲を見回し、誰も聞き耳を立ててないことを確認してから(おっさん同士のオカルト雑談を盗み聞きするやつなんていないだろうに)、口元を手で隠すようにして、話を続けた。
「もしスマホに知らない番号から着信があったら気をつけろ。その番号は、末尾が777らしい」
「それで、その777から電話がかかってきたら、どうなるんだ?」
「そのスマホの持ち主は失踪してしまうそうだ」
「失踪するだけ? 地味だな」
スマホの画面から女の霊が出てくるとか、日本人形がいつの間にか家にあらわれるとか、そういう一目見てわかる面白さが足りない。
「いや、いや、これ実話だから。本当の話だから怖いんだって。この市内ではもう何人も失踪しているらしい」
川村が怖がらせようと必死になればなるほど、嘘臭さは増していく。
「腕が落ちたな、川村。昔はもっといいオカルトネタを持ってたのになあ」
「だからさあ、本当の話なんだって。ネタとかじゃないから。マジのやつだから」
俺は笑ってビールを煽った。川村は何とも言えない顔で俺を見ている。ジョッキをテーブルに置くと、音がやけに大きく響いた。違和感を覚え、店内を見回す。客も店員も誰も口を聞いていない。奇妙なほど静かだった。カウンター席に座る男が、腰をひねってこっちに顔を向けようとしたが、気が変わったのか、すぐにもとの姿勢に戻った。
「マジで気をつけろよ」
川村は、まじめな顔をしていた。
それから一月ほどした頃。
昼食を食べて職場に戻った直後のことだった。
俺のスマホが鳴った。
スマホの画面には、知らない番号が表示されていた。
×××-×××-×777
背筋がぞくっとした。
川村の言葉を思い出してしまう。
「末尾が777の電話がかかってきた後、失踪する」
いや、俺は信じないぞ。
オカルトなんてあり得ない。
俺は電話に出た。
「もしもし……」
「こちらは○○税務署ですが、おたくの会社の税務申告について、ちょっとお尋ねしたいことがありまして……」
俺は恐怖で凍り付いた。
まさか税務署から電話がかかってくるなんて。
俺が経営している会社の脱税がばれたのだろうか。
海外に逃げる方法を考えなければ。
俺は今後の身の振り方を考えるので頭がいっぱいで、税務署職員の言葉は意識の上をすべっていった。
<完>
みんな失踪してしまう ゴオルド @hasupalen
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