第2話

 「言いにくいのですが・・・・・・娘さんは確実に薄笑い病です」。


 パニックを起こしながら病院に連れていった。医者は10分ほど診察し、鎮静剤を飲ませユイナを眠らせた。


 そして沈痛な表情で、俺に宣告した。


 文弘とソフィーナの死に顔を見た時以上の恐怖が俺を襲った。


 震えながら叫んでいた。

 「嘘だろ・・・・・・先生・・・・・・だって・・・・・・ユイナはまだ12歳なんだよおおお!嘘だあああ!嘘だって言ってくれええええええ!!」。


 薄笑い病


 原因は全くわかっていない。とにかく脳が麻痺し、細胞が壊れていき、患者は独特の薄笑いを浮かべながら死んでいく。

  

 治療法はないではない。だがそれはソーマという恐ろしく高価な薬だ。稼ぎまくっていた俺でもどうかな・・・・・・って額だ。今の俺ではとても手が出ない。


 吐き気を堪えながら聞いた。

 「薄笑い病って事は・・・・・・ソーマを飲ませる以外には助かる道はないんだね?」。

 「残念ながら・・・・・・」。

 「今のままなら・・・・・・娘は・・・・・・あとどれくらい生きられるんだ?」。

 「子供は病気の進行が速いので・・・・・・もって・・・・・・半年前後かと」。

 「わかった・・・・・・」。


 それ以上は無理だった。当分の入院費を払って、俺は外に出た。


 まるで90歳の老人のような足取りで、家に着いた。


 そして後ろの奴に言った。

 「ったく家までつけてきてきやがって!さっさと姿を見せろ!用件はなんだ!?」。


 曲がり角から女が出てきた。


 見た目は人間族。見かけ通りの年齢なら二十歳代前半。セミロングの金髪がまぶしい。細い眉、切れ長の赤い瞳が色っぽい美人だ。おそらく魔導師だ。赤のミニスカートに黒のローブを羽織っている。


 高く澄んだ声で、どこかムカつく事を言ってきた。

 「細心の注意を払っての尾行だったのですが・・・・・・やはり感づかれてしまいましたわね。この世で最も無残な事を言われた直後なのにね。さすが竜剣士なだけの事はありますわね。ユウゴ・デッガード」。

 「そんな歯の浮くようなお世辞はいい。名乗れ」。 

 「マレイヤ・ライダズマ。人間族です。宮廷魔導師を任されています」。

 「代わったのか。いつ?」。

 「去年」。

 「ふーん。その宮廷魔導師が直々って事は、大掛かりな仕事って事だな?」。

 「もちろん」。


 状況が状況だ。話を聞かない手はない。


 「入れ」。


 ○            ○           ○


 「意外と綺麗にしていますのね」。

 「意外ってなんだ。娘が綺麗好きなもんでね」。

 「ユイナちゃん・・・・・・助けたいですわね?」。

 「・・・・・・何が起こった。少し疲れている。手短に話せ」。


 にこやかさは変わらなかったが、赤い瞳の表情が変わった。凄みを帯びた。


 「クトゥルフ一族の封印が解かれました」。


 「・・・・・・ほう」。


 クトゥルフ一族。


 伝説によれば数万年前、この世界を牛耳っていたとされる桁外れの力を持つ魔神の集団。


 神々の力を結集して何とか封じ込めたと聞いたが・・・・・・


 「連中は今何処にいるんだ?」。

 「マルルードから4000キロ西にあるバイロ国のビマラーヤ山脈に集まっています。彼らの妖気の影響を受け魑魅魍魎ちみもうりょうどもが集まり、バイロはかなり危険な状態になっています」。

 「ふーん」。


 恐らく俺と文弘で討伐した魔族よりも力は上だ。


 本来なら俺一人じゃ無理だ。だが・・・・・・やるしかない!


 「ゲラウロスは使えるんだろうな?」。

 「もちろん!」。

 「ソーマはユイナが治るまで使えるんだろうな?」。

 「もちろん!それ以外にも報酬がありますのよ」。

 「あ?」。


 マレイヤが立ち上がり、魔法で赤いワンピースを脱いだ。


 豊かで張りのある乳房。黒の下着が辛うじて覆っている。


 やはり豊かできゅん、と上がったお尻。これも黒の下着が大変そうだ。


 白くむちっとした太股でマレイヤは俺に近づき頬を撫でながら言った。

 「竜剣士ってどんながするのかしら」。


 俺はうんざりしながら答えた。

 「俺が間に絶対服従の魔法とかかけるつもりかね?」。


 マレイヤの眉がピクッと動いた。

 

 「そして竜剣士のDNAにも興味があるみたいだな。分析してそれと同じ力を得ようってか?」。


 マレイヤの頬がピキピキピキっと引き攣る。魔法で素早く服を着けた。意外と正直な奴だw


 「さすがは竜剣士!鋭い読みですわね。でも10年以上雑魚モンスターばかり狩ってきたようですし、肝心要の腕がなまっていてはどうにもなりませんわ!ついて来てください!」。


 俺は言われるままにマレイヤと一緒に馬車に乗った。




 懐かしい所だった。王を守る騎士達の修練場だ。


 普通なら昼間は木刀で打ち合う音や騎士達の気合いで活気に溢れているはずなのだが、人っ子一人いない。


 「貸し切りましたの。あなたの力を試すためにね」

 「念じてみてください。封印は解いてあります」。


 俺は右手を上げ、(ゲラウロス、いでよ!)と念じた。


 青い光が炸裂!ずっしりと重い感触。これが戦いの時は信じられないぐらい軽くなる。


 青い炎を凍りつかせたような刀身。


 文弘に次ぐ俺の相棒、ゲラウロスだ!


 「召喚!」マレイヤが叫んだ。


 おやおや出てきたな。


 炎を全身に帯びた尾も入れると3メートル前後に及ぶとかげ。サラマンダーだ。5匹いる。Cクラスあたりの戦士じゃ奴らが近づくだけでもやばい。火も吐く。だが。


 「マレイヤ。お前俺を馬鹿にしてるのか?」。

 「え!?」。

 「少な過ぎる。もう5匹増やせ!」。


 マレイヤの顔がカッと赤くなった。そして叫んだ。

 「召喚!」。


 更に5匹増え10匹になった。宮廷魔導師が命じた。

 「かかれえええ!」。


 サラマンダー全員が火を吐く。俺は防御壁で防ぐ。間髪入れずに10匹が猛然と襲いかかる。1000度以上の火の塊が飛び込んで来る。


 俺はゲラウロスを振り上げ叫んだ。

 「竜巻ドルチェロウド!」。


 一瞬で凄まじい竜巻を起こした。「グエエエエエッ!」驚きたじろぐサラマンダー達。だがこの程度で吹き飛ばされる連中じゃない。


 だが俺は隙をつき空中30メートルにいた。


 そして「爆撃剣ダーボム!」と叫びゲラウロスを振り下ろす!


 10筋のエネルギーの塊がサラマンダーに迫り。


 凄まじい爆音を響かせ。


 10匹残らず。


 木っ端微塵に砕いた!


 断末魔も残さず、残骸となり消えていった。


 残ったのは俺とマレイヤ。


 平静を装ってはいるが指先が震えていた。魔力は相当なものだが実戦経験は乏しいらしい。


 「どうかね?俺は合格か?」。

 「もちろんですわ!心強い限りです!ですが、絶対に政府の命令通りに動いていただきます。よろしいですわね?」。

 「今のところ逆らう理由はない」。

 「いいでしょう・・・・・・では、具体的な進路を指示します。路銀も差し上げます。お城へ」。


 城まで向かった。そして色々と細かいルートを指定され、クトゥルフの連中をやっつける以外の仕事も押しつけられた。かなりムカついたが、足元完全に見られてる。致し方ない。


 まあ路銀は予想以上に貰った。酒には事欠かないだろうw


 その日は城に泊まる事にした。翌日の朝、ユイナと話せる状態なら話して、出発だ。


 何が待つのか。 

             

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パーティーを追放されたおっさん魔法剣士が実は伝説の竜剣士だった!娘の病気を治すために最強の魔王を倒すための旅に出る! @kurotonkun2023

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