パーティーを追放されたおっさん魔法剣士が実は伝説の竜剣士だった!娘の病気を治すために最強の魔王を倒すための旅に出る!

@kurotonkun2023

第1話 

「要するに俺はクビなんだな?」。

 

 自分より10歳も若いパーティーのリーダーで剣士のエヴァンに尋ねた。


 「申し訳ないのですが・・・・・・パーティーの更なる発展のために・・・・・・」。


 本当に済まなさそうだった。うん、こいつはいい奴だし頭も切れる。判断は正しいんだろう。だが俺にも事情がある。を食わさなきゃならん。学校もやめさせたくない。粘ることにした。


 「そうだな。お前が私的感情で判断する奴じゃないって事は知ってるよ。それに確かに剣じゃ俺はお前には敵わん」。


 そして俺が魔法使いのエリフを媚びるような目で見て言った。

 「魔法じゃエリフには敵わん」。


 そして癒術師のルリカに哀願するような顔で言った。自分が嫌になる。

 「回復魔法ではルリカには敵わん」。


 そしてまたエヴァンに訴えた。

 「だけどさあ、剣と魔法と癒術全部使える奴ってそうそういないと思うぜ?誰かが負傷したりした時の代役にはなると思う。こういう奴置いといたほうがパーティーの安定度増さないか?」。

 「言っておられる事はわかりますよユウゴ。でもね、パーティーそのものがAクラスと認定されたんです。これからは依頼の難易度も格段に上がります。こう言ってはなんですが・・・・・・全てがBクラスのあなたより、僕と同じAクラスの剣士を招くほうがこれからのパーティーのためになる。そう判断したんです」。


 ははは。ぐうの音も出ないや。正論過ぎてなんかムカつくけど。


 「わかった・・・・・・みんな元気でな。世話になったよ」。

 「「「お疲れ様でした!!!」」」。


 みんな心から言ってくれてると思った。これ以上粘るのは醜態だ。


 俺は私物をまとめ、出ていった。



 参ったなあ。


 34歳の、この世界じゃ人生の後半に差し掛かってる、何をさせても中途半端なおっさんが職を無くした。


 冒険者ギルドに戻って新しいパーティーに入れてもらえるしかないんだが、年齢を理由に断られる可能性が高い。


 一匹狼でやれない事もないんだが、それじゃ大した仕事が来ない。収入ダウンはまぬがれない。


 いや、を養おうと思ったら養える。を使えばいいんだ。だがそれは・・・・・・


 そんなグチャグチャ街の真ん中にある広場のベンチに座って考えていた。すると。


 ぽかん。


 「なんだァ!」誰かが俺の後頭部に毬ぶつけやがった。


 またあの野郎!とか思いながら振り向くと。やっぱりだ。だ。


 少し青みがかった長い銀髪に、同じ色の大きな瞳が愛らしい。母親譲りだ。


 すっと通った鼻筋に形の良い唇。これは父親譲り。もうビジュアルに関しては両親のいい所ばかり受け継いでいる。

 

  145cmの小さくて華奢な体を青のワンピースのミニで覆っている。抜けるように白くて可憐な足がまぶしい。


 そしてニヤつきながら偉そうに腰に手を当て俺を見ている。


 そう、俺の愛娘ユイナ12歳だ。デイドナ市立幼年学校(日本の小学校のようなもの)の6年生だ。


 「こら!なにをしょぼくれてんだおやじ!ただでさえひどい顔が人の枠に入ってないぞ!」。

 「こっこら!それが父親に向かって言うセリフか!?」。


 ったく!日増しに生意気なってやがる!甘やかしちまったのか・・・・・・


 生意気ざかりの小娘はすっ飛んでいって俺の隣に座った。


 そして笑いながら俺の顔をじっと見る。


 「ははーん、ユウゴ・デッガード!さてはパーティーをクビになったな!?」。

 「なっ!?・・・・・・」。


 すげえ直感力だ。の子供だけの事はある。


 「よくわかったな・・・・・・『中途半端なおっさんはいらねえ』って言われて・・・・・・クビになっちまった・・・・・・」。

 「だからと言って34のおっさんが情けない顔して公園のベンチでいたらもっと惨めになっちゃうぞ!ほらもう帰ろ!このユイナ姫が特製の煮込みを作ってあげよう!今日はお酒飲んじゃいけない日だけど特別に許す!」。

 「ったく生意気なセリフが次々と。おめえは俺の母親代わりのつもりか!?」。

 「いいから!早く行こ!」。


 ユイナの小さくて柔らかくて暖かい手が俺の手を握って促す。俺は苦笑いしながら家路に向かった。


○              ○              ○



 俺の本名は飯島優吾いいじまゆうご。日本という国で生まれた。に来るまでは何処にでもいる、人付き合いの下手なぼっち高校生だった。


 そんなぼっちキャラでも修学旅行には行く。バスの中でぼおっとしてたら、いきなりバスが光に包まれ、俺は意識を失った。


 気がつくと、何やら薄暗いだだっ広い部屋にいた。一人じゃなかった。クラスで俺と同じようなぼっちキャラの、長谷川文弘はせがわふみひろもいた。


 俺達の前に、純白のドレスを着た女が現れた。


 金髪のとんでもない美人。スタイルも抜群だ。


 女が言った。

 「ようこそマルルード国へ!選ばれし勇者達よ!これでこの国は救われる!」。


 俺も文弘もまるで状況が掴めなかった。何とか声は出たので聞いてみた。


 「勇者ってなんですか?なんで俺達此処にいるんですか?そもそもマルルードってなんですか?」。

 「あなた方が産まれた世界とは全く次元の異なる世界。マルルードとはその世界の中の国の一つ」。

 「要するに異世界って事ですか?」文弘が尋ねた。

 「そう」。

 「その異世界になんで僕達呼ばれたんですか?」。

 「申し訳ない話だ。我がマルルードは魔王の軍団によって滅亡の危機に瀕している。奴らを倒すには特別な力を持つ者が必要だ。必死の探索によりあなた方を見つけ出す事ができた。我らと共に戦っていただく」。


 俺は叫んだ。

 「冗談じゃねえてめえら最悪だ!なんで訳わかんねえ国の為に戦わなきゃなんねえんだ!?さっさと俺と文弘を」まで言ったら、女の右手が光った。


 床に亀裂が入った。軽く煙が立ち込める。


 足元から冷たい震えが来た。吐き気もしてきた。


 文弘はへたり込み、首を傾げていた。目の焦点が合っていない。


 「本当に済まないと思っていると国王陛下もおっしゃっている。だが、我らの意に背くなら」。


 本当に冷たく言い放った。

 「死んでもらう」。


 もう従うしかなかった。別の部屋に連れていかれた。


 何やら小山があって、てっぺんに剣のようなものが刺してあった。


 「優吾、お前ならできる。昇ってあの剣を抜きなさい」。


 うんざりしながら昇っていき、その剣を掴み、引き抜いた。


 思ったよりも軽く抜けた。


 変な剣だ、と思った。


 恐ろしく長い。なんか青い炎を凍らせたような、そんな形だった。これ本当に剣か?とも思った。だが。


 持っているうちに不思議と鉛みたいに重かった気持ちが晴れていった。それどころか全身から力が沸き上がって来る!そんな気さえしてきた。


 「どうじゃ優吾、『ゲラウロス』を持った気持ちは?」。


 女が尋ねた。なんだ?何で涙ぐんでいるんだ?


 「別に・・・・・・これ、強い剣なんですか?」。

 「それは伝説の『竜剣士』にしか持てぬ剣!やはり我らの目に狂いはなかった。お前は必ずや魔王を倒し、救世主となるであろう!」。


 まるでピンと来なかった。ゲームの世界に入り込んで出られない。そんな迷惑さしかなかった。


 次いで文弘だ。どさっと大きな本が渡された。


 「開け、と念じてみよ」。


 文弘は目を閉じた。こいつは俺より順応が早いみたいだ。


 やがて、文弘は何もしないのに本が開かれた。


 「いかずちよあれ!と念じてみよ」。


 文弘は再び目を閉じた。するとページがぺらぺらとめくられ。


 凄まじい轟音と光が起こった!


 「ひゃあああ!」。


 俺より文弘のほうがびびっていた。だが確かに稲妻が横殴りで生じたんだ。


 「伝説の魔術書を操れるとは!やはりお前も予言にあった通りの救世主!我らを救ってくれい!」。


 魔法で脅しておいて救ってくれ!とかって・・・・・・とムカつきもしたが、とにかく選択の余地がない。俺らは異世界で第二の人生を送ることになった。


 一ヶ月ほど訓練を受け、俺はゲラウロスとやらを自在に操れるようになり、この国の剣士などまるで相手にならなくなっていた。文弘もめきめき腕を上げ、俺らを脅して従わせた宮廷魔導師の女、アルレイリアをも圧倒するようになった。


 そして実戦に配備された。戦況はかなり不利だったが連戦連勝。俺と文弘は共に戦い、助け合ううちに友情が芽生え、かけがえのない戦友になっていった。


 そして魔王討伐!俺と文弘は救世主となった。王様から自分の世界に戻ってもよいと言われたが・・・・・・


 俺達も若かった。元々では何の価値もないモブ野郎だったので未練はない。ならばで思い切り冒険する。

 俺達は世界を股にかけるS級の冒険者となり、勇名を馳せていった。


 そして仲間が加わった。青みがかった銀髪が美しい女癒術師だ。もちろんS級。名をソフィーナといった。


 そしてソフィーナと文弘は恋に落ち、結ばれた。娘も産まれた。


 ユイナだ。


 全てが順調だった。財産も莫大なものとなり、こちらの世界に来て本当に良かった、と思えた。


 12年前、悪夢が起こった。


 ユイナをマルルード王家直轄の施設に預け、俺達は海の世界を荒らしていた鯨神の一族の討伐に向かった。


 俺は驕り高ぶっていた。ゲームで言えば完全に状態だった。


 かかるはずのないマインドコントロールを掛けられ。



 文弘と。


 ソフィーナを。


 

 切り殺してしまった。


 だが、文弘は気丈にも最後の力を振り絞り、俺のマインドコントロールを解

いてくれた。


 そしてその後の事を俺はいまだに思い出せない。


 気がついたら海面に鯨神どもの死体が浮かんでいた。



 文弘とソフィーナの遺体も。


 勉強不足の俺は回復魔法を知らなかった。どうにもならなかった。


 俺はマルルード国王に全てを報告した。


 我が国の至宝と言うべき魔導師と癒術師を殺した罪は重いが、今までの功績を考慮され竜剣士の称号剥奪とゲラウロス返上、財産没収で済んだ。


 俺はユイナを引き取った。


 ソフィーナはかつてマルルード国と戦争を起こして滅んだジュメール人の血を引く者だった。救世主の妻であり、S級の癒術師であったので夫婦の留守中はユイナの世話をしていたが、文弘もソフィーナも死んだ今ジュメールの血を引く者は王家直轄の施設では引き取れないとの事だった。


 そしてなお悪いことに、莫大なはずの夫婦の財産がほとんどなかった。


 何に使っていたのかいまだにわからない。もう戦いたくなかったが、ユイナを育てるため俺はB級の剣士として冒険者ギルドに再登録した。


 B級ならユイナを十分養える。そして罪を犯した俺が必要以上の富を得るわけにはいかない。


 そして苦い経験から学び攻撃魔法と回復魔法を身に着けていった。オールラウンダーとしてまあまあ重宝がられていた。若い頃は。


 そして早々と12年がたち、俺は使いづらいおっさんになってしまった。ユイナは生意気だけが気掛かりな元気で優しい子に育った。


 ○            ○             ○


 何が特製煮込みだ。骨付きの鶏肉と野菜ぶっこんで煮詰めただけじゃねえか。まあこちらの世界の食文化じゃ胡椒も砂糖も超貴重品で、まともに使えるのは塩と醤油に似た調味料だけだからうまいもんなんて期待できないけど、あくは最低限取ってくれやw


 まあ毒じゃないから我慢して食べた。いつも通りユイナは学校での事をべちゃくちゃ喋っていたが、急に無口になった。


 「?」と思いながらも飲んでたが、ポツリとユイナが聞いてきた。

 「ねえお父さん、明日からどうするの?」。

 「んん?まあ、ギルドに行って、入れてくれそうなパーティーを探すんだろうな。なかったら、一人で頑張るさ」。

 

 ユイナが下を向いた。目が暗い。この子にしては珍しい。


 そして語り出した。

 「ユイナねえ・・・・・・ほんと言うと・・・・・・もうお父さんに危ない事してほしくないんだ」。

 「え?・・・・・・うん・・・・・・そう言ってくれるのはありがたいけど、お父さん若い頃から戦うことしかしてこなかったからなあ。化け物退治で稼ぐしかねえんだ」。

 「猟師は?」。

 「それじゃ収入が半分になっちまう」。

 「いいよ!ユイナ山大好きだし!だいぶ蓄えもできたし!それにユイナ幼年学校出たら働くから!」。

 「確かにほとんどの子がそうするよな。でもユイナは成績抜群だし、お父さんは中等学校に行っていい仕事を見つけてもらいたいんだ」。

 「いいってそんなの!ユイナずっとお父さんといたいの!」。


 そういうユイナの目に涙が滲んでいた。


 嬉しかった。


 気遣いも、そこまで人を思いやるぐらいにこの子が成長してくれた事も嬉しかった。


  うん。確かに俺も戦いに疲れた。


 熊や猪狩って生きるのも大変だけど、ゴブリンやリザードマンよりはましだ。


 「そうだな・・・・・・すぐには無理だが・・・・・・そっちの方向で行くか!」。

 「やったあ!」満面の笑みで喜ぶユイナ。うん、この笑顔だ。俺はユイナがこの笑顔でいてくれればいいんだ。


 そして山での生活の話で盛り上がって、その日は終わった。


 翌朝。


 何をやるにも先立つものは金だ。あと一回は修羅場を潜らねばならん。俺はギルドに行くために起きた。


 あれ?


 おかしいな。ユイナが起きて来ない。


 俺はユイナの部屋をノックした。

 「ユイナどうした?学校に遅れちまうぞ!」。


 「ううう・・・・・・」。


 呻き声が聞こえた。病気?


 「どうしたユイナ。具合悪いのか?」。


 「おどうさん・・・・・・だすげで・・・・・・」。


 「ユイナ!」俺は部屋に入った。


 目を疑った。


 ユイナが半裸でぶるぶる震えている。視線は上ずり、涎を垂らして唇は薄笑いを浮かべている。


 嘘だろ・・・・・・嘘だろ・・・・・・


 「ま、まさか・・・・・・薄笑い病!?」。

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