七瀬七海の不運な日常

黒いたち

七瀬七海の不運な日常

 俺は七瀬七海ななせななみ。地元国立大学の二年生だ。

 父親が早くに病死し、女手ひとつでここまで育ててくれた母には、感謝しかない。

 しかし母の勤め先が倒産し、学費がはらえずに退学になる寸前、「七瀬さん」にプロポーズされて再婚し、学費の心配がなくなり事なきを得たが、俺の名前が七続きになったのは、ちょっとどうかと思う。七瀬さんが、俺たちの苗字みょうじ――久保に変えてもいいと言ってくれていたのに、母は七瀬姓になりたかったらしい。なぜだ。


 アンラッキーかとおもったらラッキー。かとおもいきやアンラッキー。

 俺は、幸運と不運が同時におとずれる体質だった。

 そしてついたあだ名は「アンラッキーセブン」。

 つけたやつは、となりで無責任に爆笑している男、統真とうま

 俺のおさななじみ兼悪友だ。

 どのぐらいあくかというと、自分の借金のカタに、親友の俺を売るぐらい。


「おー、あんちゃんマジでツイてんな」

「こいつ、カツアゲされてるときが一番出るんすよ!」


 さわがしいパチンコ店は、時代に逆行するように、タバコの煙で空気が白い。

 そのなかでもいちばん耳障りなのは、統真の馬鹿笑いだ。


「42連チャン! ウケる! 動画アップしよ」

「よーしよし。利息は回収できそうだな。きばれよ、アンラッキー7」


 ヤのつくお兄さんに、バンッと肩をたたかれる。

 俺は半泣きになりながら、ハンドルをにぎりつづけた。






「たすかったわ七海! さっすがアンラッキー7!」

「おまえもうほんとやめろよマジで寿命縮むわ」


 統真と夜道を歩きながら、俺はおおきなためいきをつく。

 なんとか利息分をヤさんに渡せたことで、ぶじに俺らは解放された。


「利息ぴったりで連チャンストップ! マジうけるー!」


 馬鹿笑いする統真を、俺は強めにこづく。


「統真。わかってんだろうな」

「はいはい。報酬は俺んちにお泊りでしょ?」

「ちゃんと紋架もかちゃん、居るんだろうな」

「いるいる! つか七海、しゅみわりぃー」


 統真がうえっと嫌そうな顔をする。

 俺はちょっとムッとする。


「紋架ちゃん、めちゃくちゃいいこじゃねーか。おまえとちがって!」

「だってあいつ俺のこと『クソ兄貴』って呼ぶんだぜ」

「合ってるじゃん。さすが紋架ちゃん」


 そうこう言っているうちに、統真の家につく。

 もちろん統真の部屋ではなく、リビングに向かって統真の背中をぐいぐい押す。

 統真はダラダラ歩きながら、ようやくリビングのとびらを開けた。

 

「ただいまー」

「おじゃまします!」


 気合を入れたあいさつをすると、統真は嫌そうに顔をしかめた。

 

「あ、ななみんだ。いらっしゃーい」

「こんばんは、紋架ちゃん! そのルームウェアかわいいね!」

「でしょ?」


 くるり、とまわって見せてくれる。かわいい!

 デレデレしていると、統真がいきなり俺と肩を組む。


「こいつさぁ、今日パチ屋で42連チャンして調子のってんの」

「おまっ!? だれのせいだと――」


 このままでは俺の趣味がパチンコだと思われてしまう。


「ふーん。ななみんってパチやるんだ」


 ほらね!?


「ち、ちが」

「そーなの。ななみんは将来パチプロになるんだってー」 

「ふざけんな統真」


 強めに統真をこづく。

 紋架ちゃんの誤解を解こうと、俺は口をひらきかけ――。


「てか彼氏が依存症でさ」

「彼氏いるの!?」

「あ、昨日わかれたから元カレか」 


 わかれたのか。ラッキー!


「だから次につきあうひとは、ギャンブルやらないひとって決めてて――あ、みおからだ。もしも~し」


 紋架ちゃんは、さっさと自分の部屋にあがっていった。


「振られてんじゃん!」

「まだ振られてない!」

「ギャンブルやめなよ、ななみん♪」

「うぜー! だいったいおまえのせいで――」


「――ふたりともうるさい!」


 二階から紋架ちゃんに怒られた。

 声を出さずに爆笑する統真が憎らしい。


「けっきょく最後はアンラッキーじゃん……」

「だから俺がつけたやったでしょ? 『アンラッキー7』!」

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七瀬七海の不運な日常 黒いたち @kuro_itati

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