アンラッキーのナナ

北きつね

全部、ナナが悪いの?


 今日も、学校で”いじめ”られたと、少女が泣いている。


 少女を慰めるのは、施設の職員や兄や姉だけではない。少女が抱きしめているぬいぐるみも慰める役割を持っている。涙で重くなったぬいぐるみを見るたびに、職員は少女が何をしたのかと”問いたい”気持ちになっている。


「ねぇ筋肉。ナナは、そんなにダメなの?」


 ダメじゃないと答えるのは簡単だ。その簡単な答えが言葉にならない。


「ナナが全部、パパとママが死んじゃったのも、ペロが死んだのも、全部ナナが悪いの?」


「違う。ナナは、悪くない!」


 少女が泣きそうな表情を職員に向ける。


「だって、先生が・・・。ナナがしっかりしないからだって・・・。全部、ナナが悪いから・・・」


 言葉を詰まらせる。両親が目の前で死んでしまった姿を思い出した。

 ”ゲームソフトが欲しい”という理由で、両親は殺された。万引きを注意して殴られ、ナイフで刺された。


「ナナ」


 少女の問いかけは、誰かに向かって聞いているわけではない。少女は、自分が”不運アンラッキー”だとは思っていない。ラッキー不運アンラッキーで、両親を殺されたくない。イジメられたくない。ペロを殺されたくない。

 少女をイジメている子供たちが、金持ちの子供でラッキーと口癖のように言っているのを聞いて、自分が”不運アンラッキー”だとは考えないようにしている。


「パパとママは、間違っていない?」


「そうだ」


 今日もぬいぐるみを抱きしめて眠っている。

 職員筋肉と呼ばれたは、罪もない壁に罰を与えている。そして、自分の不甲斐なさを悔やんでいる。


「手を痛めますよ」


「・・・。なぜ、ナナなのでしょうか?」


 耳に届いたはずの呟きには沈黙だけが返された。誰にも答えられない。


 少女が今まで味わった不運アンラッキーの数だけ幸せになる権利が与えられている。職員だけではなく、皆が信じて、祈っている。


 ぬいぐるみを抱きしめながら眠る部屋には、両親から貰った名前を示す「幸七さちな」と書かれた札が掛けられている。

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アンラッキーのナナ 北きつね @mnabe0709

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