七歩必殺

ムネミツ

第1話 七歩必殺

 「これで七歩目、終いだよ」

 「おのれ、七歩必殺ななほひっさつっ!」


 幽鬼の如く青白い肌の剣客の男が、血を吐きながら俺の二つ名を呼んで息絶える。


 男の死因は、たった今俺が気を込めた棒切れで心臓を貫いたから。


 「……青面鬼せいめんき、あんたも大した奴だったよ」


 鉄の胴当てを着ていた青面鬼の胸から、俺は棒を引き抜いて呟く。


 抜くと同時に、俺が剣代わりに使っていた棒が粉々になった。


 「気を込めれば棒も剣になるが、棒に気を込めても七手しか持たないか」


 月明かりが照らす山の中の雑木林。


 俺は倒した相手の骸に背を向けて家路に着く。


 裏山に散歩に出たら難敵に挑まれた不運。


 家に剣を置いて来たから、棒で相手をせねばならなかった不運。


 「まあ、七つ以内で不運が収まったら良しとしよう」


 山道を歩き、住処にしている丸太小屋へと入る。


 「お帰りなさいませ、旦那様♪」

 「……勘弁してくれ、何でいるんだよ翠玉すいぎょく?」


 戸を開けると、そこには一人暮らしの男の家にいるはずのない存在がいた。


 三つ目の不運である、狐の耳と尾を生やした金髪の美少女


 「まあ、夫の家に妻がいるのは当然ですわ♪」

 「命を助けた事なんて気にするな」

 「狐は恩は末代まで忘れません♪」

 「……勝手にしろ」


 四つ目の不運は、この狐が俺の剣を隠しやがった事。


 俺は七歩必殺などと呼ばれちゃいるが、この狐は手に余る。


 

 「おい、止めろ!」

 「今日こそは私と夫婦になっていただきます、逃がしませんから♪」


 五つ目の不運、翠玉に結界を張られて逃げ道が消えた事。


 「ささ、旦那様♪ 虎の肝などを入れた薬草茶をどうぞ♪」


 翠玉が瞳を光らせて、明らかに盛った茶を差し出して来る。

 

 六つ目の不運は、暗示に抗えず翠玉と結ばれてしまった事。


 「七歩必殺、あの世から戻って来たぞ!」

 「戻って来るなよ、冥府の役人はどうした!」


 七つ目の不運は、昨日倒した青面鬼が蘇って俺に挑んで来た事。


 不運を嘆きつつ、俺は青面鬼と再戦した。

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七歩必殺 ムネミツ @yukinosita

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