幸福の猫【KAC20236】

あきのりんご

幸福の猫

 吾輩は猫である。

 名前はラッキーという。

 主がよく言っていたから真似してみたが、吾輩って言いにくいな。

 俺で統一する。

 俺の猫生は不運の連続だった。


 第一の不運、生まれてすぐ親から引き離された。


 第二の不運、ブサイクだからペットショップでずっと売れ残っていた。


 第三の不運、売れないから保護猫カフェとやらに横流しされた。

 ずさんな管理の店だったから、ここの猫たちはみんなろくにご飯を食べさせてもらえず衛生管理も悪かった。


 第四の不運、保護猫カフェが潰れて俺は野良猫になった。

 これはこれでよかった。初めての外の世界。

 厳しい暮らしだったが、自由に過ごしていた。

 よその猫と喧嘩することもあった。

 勝率はよくなかったが、猫たちの縄張りや生きる知恵を知ることができた。

 ときどき餌をくれる人間もいた。

 俺をぶさかわいいと言って撫でてくれた。

 杖をついた婆さんだったが、突然いつもの場所に来なくなった。


 第五の不運、保健所とかいう奴らに追い回された。

 あいつらに捕まったら処分されるか、保護猫カフェに行かされるか。

 そんなのまっぴらごめんだ。

 逃げ回っているうちに、うっかり車に轢かれてしまった。

 普段ものすごく気を付けていたのに、一生の不覚。


 第六の不運、瀕死の俺は病院へ運び込まれた。

 命は助かったが、俺の後ろ足は使い物にならなくなっていた。

 俺の猫生もここまでか……と思っていたら俺を病院へ連れてきた人間が、俺を引き取りたいと言い出した。

 そいつは俺にラッキーと名を与え、猫用車いすを作ってくれて俺は自由に動き回ることが出来た。


 第七の不運、野良猫時代に感染した病気が悪化した。

 主は俺を懸命に看病してくれたが、こればかりはどうしようもない。

 俺は涙を流す主を置いて、虹の橋を渡った。

 不運ばかりの猫生だったが、最後は悪くなかったと思う。

 主もそう遠くない未来、こちらへ来るだろう。

 そのときには俺が出迎えてやるよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幸福の猫【KAC20236】 あきのりんご @autumn-moonlight

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ