第2話 白く嗤う悪魔の材
「ねぇっ‼︎起きて…‼︎起きろよ‼︎」
微睡の中から声が聞こえる。
「水分‼︎早く眼を覚さまして…‼︎お願い…」
「ッッ…なんだよ…もう…」
眼を開けるとすぐ前に白粉を施した少女が立っている。手を握ってずっとそこにいたらしい。
頭から足まで白っぽいというか灰色っぽい格好で髪が肩までかかって風が吹くと左に右にゆらゆら。指に纏う銀の粒がキラリと光る。
「水分…。貴方なんてことを…。何をしたの‼︎答えて‼︎答えろ‼︎」
俺には訳がわからない。眠っていたところをいきなりおこされて。どこの馬の骨かもしれない奴に。深刻な物言いで言われても何が何だか。
「外を見て…これは貴方が望んだこと…なの…?」
少女は瞼に涙を溜めて俯く。
……?俺は…何をしていた?どうして眠っていた?思い出せない。あの日の出来事を。確かに何かをした。俺は何を…何に憧れていたんだ…⁈
…外?外に何が…
窓に眼を向ける。窓から異様に白く、淡い光が見える。カーテンをめくって外を見た。
「どうするの…?どうするつもりなの…?」
外は一面真っ白だった。俺よりも低い土地の家は白いふわふわに埋まって、電柱の先が短い。視界もホワイトアウトでままならない。
「は…?雪…?どうしてこんな季節に?」
「わたしに聞かないで。これは全て貴方が行ったこと。貴方の意志。貴方の願い。それに…これは雪なんかじゃない…そんな綺麗なものじゃない」
「雪じゃない?そんな訳あるか‼︎これはどう見たって」
「白綿…」
彼女は静かに俯いた口から声を発する。
石綿。石綿…?
「貴方の発動した魔法がこの世界の気候を変えたの。」
「俺が魔法を?バカ言うな。俺に魔法を使える訳…それに石綿ってなんだ‼︎」
俺を起こした少女は窓から首を出して外を眺めて眼を瞑った。表情から諦観が覗く。声を震わして彼女は答える。
「アスベスト…と言った方がいい…かな…吸い込んだら肺に留まり続けて…いずれ死んじゃう…」
死ぬ…。死…。死……か。
いや…え?
え…お…?
「えええぇぇぇぇェェェェェ‼︎」
事の重大さに気づいた。人が死ぬ?そんな…まさか。でも彼女はアスベストだと言った。あの悪魔の建築用材がなんで空から⁈
「ちょッ、いきなり脅かさないでよ‼︎」
「アスベストって…‼︎それにお前は誰だ!どうして俺の名前を‼︎」
俺は気が動転していた。変わりきった景色に心身がまともじゃなくなっていた。
誰もいない。なんの音もしない世界で…
ああ…そうだ…誰もいない…?
みんなはどうなった‼︎
家族は?
友達は?
モコは?
そして、俺は…どうして…何が起こった…
白い虚空の先。薄く陽の光がこちらを嘲笑って消えた。白い綿が陽すらも消した。このままでは…みんな…死ぬ…
かっこいい魔導士に憧れたのに…!詠唱がダサすぎるのはアリですか…? ツカサレイ @TsukasaReiji
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