神が与えた試練 7

久路市恵

アンラッキー7

 雨は誰の涙なんだろう。

 曇り空は心の表れなのだろうか、

 あんたがどうしてそんなにうれってんのか教えてくださいな。


 そんなあんたに、わちきの憂いを訊いて欲しいわ、黙って訊いてくれるかしらね。


 わちきはなぜに女に生まれてきたんだろう。なぜにこの世に生をうけたのか、


※※※


 多感な14歳、突然黒板が見えなくなった。眼科に行ったら近眼だって、メガネをかけなきゃならないじゃん。


「お母さん、眼鏡、嫌なのよ。コンタクトレンズ買って」


「うちは貧乏やから眼鏡しか買えないの、コンタクトレンズって使い捨てなんでしょう。そんなの買えるわけないでしょ。眼鏡にしなさい」


 どうして私は金持ちの家に生まれなかったのだろう。【アンラッキー1】

 

※※※


 18歳の春、就職口は美容師、それも弟子入り奉公、父親が見つけてきた就職先、


 専門学校なんて行かせてくれるはずがない住み込み修行が始まった。


 わたしの師匠となる美奈子さんには旦那さんがいた。仕事もしないヒモ男だ。


 ある日、新人の私が洗濯機を使えるのは一番最後、回したまま、うっかり眠ってしまって、早朝、慌てて洗濯機の中から洗濯物を取り出して部屋に干した。


「あれ?パンツがない」


 ネットに入れて洗濯したはずなのに、ブラとかキャミソールはネットの中にちゃんとある。


「洗濯機の中に残ってるのかも」


 そう思って確認に行った。


「やっぱりない」


 その時、


「これ残ってたよ」


 美奈子さんのヒモ男の手の中には私のパンツが握られている。


『ギャー!気持ち悪いよ。怖いよ』

 なんてこった。【アンラッキー2】


※※※


 夢はいつの日もこの心に描き続けていた。

必ずそこに行くんだ。行かなきゃ絶対に後悔する。生きている意味を模索した。


 けれど結局、夢、希望、野望は儚くも散った。【アンラッキー3】


※※※


 わちきが愛し選んだ人は大丈夫。そう思って入籍をして、共に暮らし始めるも、理想からかけ離れている。

 どうもこの結婚は、【アンラッキー4】


※※※


 男に生まれていたらもっと上を目指して仕事に重点をおけた気がする。


 男社会の工場勤務、


「組立て班の班長してみないか」


「組立ては、端っこを齧ったくらいの作業しかしていない、みんなが付いてきてくれるとは思えない」


「いやいや貴女なら大丈夫、指示できるのは君しかいない」


 夫に相談するも、


「班長なんてしたって給料上がるのか?家事手抜きにならないのか、そんなの断れよ」


 夫より給料が上がらないと上司の期待に応えちゃならぬのか、家事なんて協力してくれればいいだけじゃない。

 基本給が安い女に生まれたことが、

【アンラッキー5】


※※※


 女に生まれたからには、やはり妊娠した喜び、十月十日とつきとうか腹の中で愛おしみ、死ぬほど痛い出産を経験したかった。この手で我が子を抱いてみたかった。


「私には……子供ができない」


 妊娠しにくい子宮、したとしても流産しやすい子宮、先天性子宮形態異常、つまり子宮奇形に生まれてしまった。【アンラッキー6】


 そして……。


※※※


 半世紀を生きて、


「私の人生ってなんなんだろう」


 なにもない

 夢もつかめず

 子供ももてず


ただ生きてるだけのそんな時間、ただ過ごしてきただけの私、選んだ人は失敗だった。


 二十年の歳月、共に生きてきた伴侶と、この春、別れる事になりました。

 離婚……【アンラッキー7】


 あの空のよに、心はいつも憂いっている。

わちきの心は雨模様。


忘れる事ができない試練、

ワースト7。


※※※


 アンとは神の名前だそうだ。


 ラッキーは神が与える幸運。

 アンラッキーは神が与える不運。


 つまり 試練。


 七つの試練に耐えてきた。


 どうか……最後にひとつくらい、わちきに幸運を与えてください。


 どうぞ……よろしゅうお頼み申します。

 

                 了


 

            


 

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神が与えた試練 7 久路市恵 @hisa051

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