マリアビートル
洞貝 渉
マリアビートル
七星テントウムシが部屋に飛び込んできた。
ぽってりとしたフォルムに目立つ赤、そこに黒い点々が七つある。
記憶が確かなら、この虫は縁起のいい虫だったはずだ。
小さな体でちょこちょこと動く幸運の虫を目で追う。
冬の気配はかなり薄くなり、はやくも夏の兆しが見え隠れし始めた春の日々。
季節は着々と前進していくのに、私は未だに新生活に馴染むことができずその場で足踏みをしている気分だった。
もう少しスムーズに家事と仕事を両立できるようになったら、なにか新しいことがしたいな、と思っている。それがいつのことになるのかはわからないけれど。
ふわりと春風が吹きこみ、カーテンが揺れる。
やりたいこととやらなくてはいけないことの比重が、どうしてもやらなくてはいけないことに傾き、ここのところ忙しくはないけれど疲労感が増してきた。
お金さえあればいろいろと解決するのに、とぼんやり考える。
家事なんて家事代行に頼めばいいだけだし。食事だって外食だけで済ませられる。もっといい家具を揃え、洒落た部屋にして、最高のリラックス空間とか作ってみたりして。
毎日飲んでる発泡酒も、値の張る酒に変えて、同じく値の張るつまみと一緒に毎日優雅に晩酌なんかしてみたり。
春のうららかな空気よりもさらに薄っぺらい妄想を膨らませていると、いつの間に移動したのか、先ほどのテントウムシが私のスマホの上を這っている。
ちらりと見ると、小学生以来連絡をとっていなかった同級生からラインが入っていた。何の用事だろうかと頭を捻りつつ、虫をどけて内容を確認する。
ここだけの話、賢い人はとっくにやってるし、絶対失敗しないで儲ける方法を、私にだけ教えてくれるらしい。
やり取りをしながら、私の口角が上がっていく。
そう、これだよ、こーゆうの。
七星を背負った幸運の虫は、私がラインにかじりついている間に開いた窓からさっさと出て行ってしまった。
マリアビートル 洞貝 渉 @horagai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます