第五回お題『筋肉』KAC20235

工務店さん

子供時代の一幕

記憶している中で、旧友の奥田は、昔から身体を鍛えている。

口癖は『筋肉は裏切らない』だ。

子供の頃だから、今から三十五年程前だね。

奥田からの提案で、肝試しをする事になる。

筋肉至上主義なのか知らんが昔から、親父さんの悪影響の元、色々やらかしていた。

確か、ボディビルダーだったと記憶している。

親父さんから、武勇伝の如く、お化けに出会った時にポージングしたら逃げて行っただの、冗談混じりの話を真剣に言っていたから、直ぐに信じ込み、思い込むの激しい男だったからね。


今もだけど、実家のあったエリアには、社寺が8つ以上あって、墓地で遊ぶ子供達も多かった。

奥田が、数日前に納骨したばかりの情報を掴んできた、「肝試しするぞと、夕方に家を抜け出して墓地に集合」

とか。

新しい墓石付近に凸したが、私には何も異変は感じられ無かった。

少しして、奥田の身体が止まる。

奥田は、歯の根が合わないような、ガタガタブルブルしていた。

彼には見えてたいたんだろうね。

静かに眠る場所を、土足で踏み込んでくる馬鹿をね。

『おらぁ、出てこいや!』

『所詮死者、生者には勝てねぇんだよ』とか喚いていたから、やられて当然かと。

これは駄目だと思って、さてどうするかと考えていたら、

寺内を巡回中の、若い坊さん(この寺の跡取り)に遭遇。

「お前らなにやって…」

そこまで言って、奥田の異常に気付いく。

「こりゃやべぇ、お前(私)直ぐに親父(住職)を呼んできてくれ」

本堂へ駆けて行くんだが、変なんだよね。

ここは遊び場だから、墓石の位置も把握している、なのにその時は、見たこともない景色だった。

本堂からみて、山の斜面に墓所は並んでいるから、基本斜面を降れば下の参道には出るはず。

ところが、いつもの倍の距離(多分)を走っても着かない。

気付くと眼の前に住職が立っていた。

「こんな時間に、墓場で遊ぶでない、死者の国へ紛れ込んでしまうぞ」

今行きかけていましたがナニカ

「で、ほんまもんの馬鹿はどこだ」

と、もう少し上の墓所を見つめる住職。

スタスタ進むので付いていく。

必死に走ったのに、距離にして十メートル程度だった。

足が重苦しく、スロー再生でもされていた気分。


住職の息子が、暴れる奥田を押さえ込んでいた。

そんな息子氏も、鍛えているので筋肉の鎧を装備したムキムキマッチョ。

暴れる姿をみて、読経を始めると、奥田は力が抜けた様にへたり込む。

「お前ら、死者を冒涜したろ」と息子さん

「それは奥田だけですよ、そもそも肝試しとか荒振ってたし」と私

「ちょっ、お前がそれで逃げる気かよ」と擦り付ける奥田

言い分全部出た

読経を終えた住職、奥田をひと睨みする。

「鍛え方と、何より根性が足らん、筋肉が正義たと?偉そうに言うなガキが」

「俺は父ちゃんに鍛えてもらって…」

それ以上言わせない様に被せてきた

「なんだ、あの臆病モノにだと、笑わせるなよ」

雲行き怪しい

奥田を見て笑いながら住職が言う

「小僧、親父に言っておけ、昼間に来るようにと、もちろんお前もだ」

説教かぁと落ち込む奥田

(俺も巻き沿いかよ)と思ったら、住職は続けて私をみながら。

「うん、お前は来なくても良い、今夜の事はアイツが原因だからな」

判っていらっしゃる。


そして翌日の昼間、奥田親子は寺を訪れた。

後日、奥田に尋ねたが、彼は言葉を濁し、曖昧ににしか答えなかった。

あれから、彼の口から「筋肉」の話は出なかったな。


そして、現在。

奥田は、世話になった寺の仕事をしている。

先代は隠居され、現在の住職(息子)の元で勤め上げている。


今回のお題「筋肉」によって記憶が掘り起こされた為、

久しぶりに奥田へ連絡をした。

「子供時代のバカ話だけど、出していいぞ、もちろんフェイクは居れてくれよ」と承諾を得たので、ここにまとめた。


つい懐かしさで、話し込んでしまったのは想定の内だと思いたい。



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第五回お題『筋肉』KAC20235 工務店さん @s_meito

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