しなやかな腕

孤兎葉野 あや

しなやかな腕

「また・・・動けません。」

少女が目を覚ますと、身体に回されているのは、自分より少し長い腕。

多分ちょっとだけ年上ではあるけれど、今は自分の保護者というべき、

もう一人の少女に抱き締められていることに気付く。


もちろん感謝はしているけれど、2日に1回・・・いや5日に3回くらいは、

こうして動けない状態で目を覚ますのは、少しだけ困ってしまう。


いや、正確には体をゆさゆさと揺すれば起きてくれるだろうし、

もしも向けられているのが、殺気のようなものだった場合、

すぐに起きて対応しているだろうということは、これまで過ごした時間から想像がつく。


だけど、目の前で自分を抱き締めながら、穏やかな顔で眠りについているのを見ると、

もう少しこのままでもいいかという気持ちになってしまう。

いつも明るい調子で話しかけてくれるけれど、出会った時に一人だったこと、

そして、いくつかの会話から察するに、きっと同じようなものを抱えているだろうから。



「腕・・・細いですね。」

自分を抱き締める腕に、そっと触れる。

重そうな剣を振り回し、盗賊や危険な動物に相対する姿を思い出すと、信じられないくらいに細い。


「でも、あの剣をたくさんたくさん振ってきたんでしょうか。」

魔法が得意である自分には想像がつかないけれど、

簡単に身に付くような動きでないことは分かる。

もしかしたら、身軽さを大事にしているから、

腕が太くなるようなことをしていないのだろうかと、ちょっと想像を巡らせる。


「・・・それと、ちょっとうらやましいです。」

まだ子供に見られることが多いけれど、それはそれとして、

スタイルの良い人への憧れは、自然と心に湧いてきてしまう。


複雑な思いを抱えながら、目の前の腕に触れていると、

もぞもぞと体が動き、聞き慣れた声がした。


「おはよう・・・私の腕、何かついてた?」

「お、おはようございます。

 ちょっと、鍛えられてるのがうらやましくなって・・・」


「あはは、少し剣を振る練習でもしてみる?」

「・・・やってみます。」

後のほうで考えたことだけを伝えつつ、

少しでも近づけるだろうかと、少女がうなずいた。

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しなやかな腕 孤兎葉野 あや @mizumori_aya

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