ミミズク、二羽並びて

「じゃあ本番いきまーす。5、4、3……」

 Pが合図を送り、カメラが今日の出演者たちを映し出す。渡邉とブッコロー──そして、特注のぬいぐるみを被った球体AIが、テーブルの前に身を寄せ合っている。

「有隣堂しか知らないAI妹のせかーい」

 Pの後ろでは、岡崎や間仁田、大平や内野や佐藤や長谷部……ゆうせか準レギュラーたちが集合して、三人──一人と二羽の様子を見守っていた。

「有隣堂のユーチューブを裏で牛耳る女・渡邉郁さんなんですが……今日は重大発表があるということで」

「はい。実はこのたび、ブッコローに妹ができました」

 拍手の音が響く。なかなか鳴り止まないそれを、ブッコローはタモリの物真似で収める。AIはキュルキュルと、それを学習する。

「はい、ということでね。さっそく自己紹介してもらえるかな?」

「はイ。私はブッコローお兄ちゃンの妹AI。名前ハ未設定デす」

 ブッコローより少し高く設定し直した声色は、パステル調に寄せたぬいぐるみの色合いに似合っていた。クル、クル、と体を揺らす。

「えー、突然の発表なんですけども、実は僕の代わりにMCやってもらって、サボっちゃおっかなって思ってたんですけどね」

「それ言っちゃうの!?」

 Pが笑いながらツッコミを入れる。いーのいーの、とブッコローも笑う。

「でも結局僕の代わりっていうのは難しいねってことになりまして……ちょっといい子なんだよね」

「ブッコローよりずっと素直です」

「え? ちょ、郁さん?」

「だから、この子はこの子としてMCをやってもらおうということになりました」

 ブッコローを無視して、渡邉は曜日の割り振りや担当する企画のジャンルについて説明する。

 AIは、よろしくね~、とカメラに向かって羽を振った。



「ところで、大事なことが決まってないんですよね」

「はい」

「実はこの子、まだ名前がないんですよ」

 AIは、あっけらかんとした口調で言う。

「おサボり用バーターだっタのデ、名前が用意されていまセン」

「そぉんなハッキリ言わなくてもいいのよ?」

 キュルル、と、若干わざとらしく学習の音が鳴る。

「まあ社内で募集もしたんですけどね、全然いい名前が出てこないんですよ。間仁田さんなんてブッ子とかいってましたからね」

「ブッ子は嫌でス」

「聞きました? AIが人間に逆らっちゃう程なんですよ」

 渡邉が、ブッ子にツボってしまうのを堪えながらまとめる。

「……というわけで、この子の名前は皆さんから募集しようと思います。専用のフォームを用意しましたので、ふるってご応募ください」

 ブッコローが、改めて正面に向き直る。

 それを真似て、AIも姿勢を正す。

「まあ妹ともどもね、これからも頑張ってやっていこうと思いますので、よろしくお願いします」

「お願いシマす」

「そしてこのまま、次は登録者数一千万人まで……」

「AI的に、一千万は無理です」

「え?」

 渡邉が吹き出す。ギャラリーも笑う。

 ちょっと~、とブッコローも笑い、AIもコロコロと笑う。

 それを見てPは、静かに、カット──と合図する。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ミミズク、二羽並びて。 玉手箱つづら @tamatebako_tsudura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ