ブラックマッスル

今福シノ

筋肉ルーレット

「おぬしの転生先は筋肉じゃ」


 俺の前に現れた自称神様は、1ミリの逡巡もなしにそう言った。


「筋肉……ですか」

「うむ」

「人でもなくて、ましてや動物とか虫とかでもなくて、筋肉?」

「そうじゃ」


 なかなかにエッジの利いた転生先だ。運悪くブラック企業に入ってしまって過労死という悲しい人生を終えた俺が転生するのが、筋肉だと?

 思わずブーイングをしてしまいそうになったが、転生させてもらえるだけマシなんだろう。俺はいろいろ言いたい気持ちをぐっとこらえる。


「でも筋肉って言っても、めちゃめちゃ種類多くないですか?」


 前世で筋トレなんかとはほとんど無縁だった俺でもわかる。上腕二頭筋とか、腹直筋とか、全部で何種類あるのかしらないけど、いったいどれに転生するというのか。

 願わくば、スタイルのいい美人の腹筋とかがいいんだけど。


「問題ないとも。このルーレットで決めるのじゃ」


 すると、どこからともなく円形の物体が現れる。針がぐるぐると回っていて、さらに外側にはぐるりと中心を囲むように書かれた無数の選択肢。


「おぬしの好きなタイミングでストップと言うがよい」

「じゃあ……ストップで」


 言うと、じゃじゃん、と謎の音楽が鳴って針が止まる。が、文字が細かすぎて見えない。


「どれになりました?」

「ふむ。おぬしの転生先は……『心筋』じゃな」

「心筋って、心臓の筋肉ですか?」

「いかにも」


 読んで字のごとしってやつか。


「でも、心筋ってどんな筋肉なんですか?」


 あんまりなじみがない。心筋梗塞こうそくとかはよく聞くけど。


「うむ。心筋は心臓を動かす大変重要な筋肉じゃ。他の筋肉とは違う特徴は……そうじゃな、一生休まず動き続ける筋肉ということじゃな」


 神様はうんうんとうなずいて、


「おぬしは幸運じゃの。こんな素晴らしい筋肉に転生できるなんて。そうは思わんか?」

「……いや、超絶ブラックじゃん」


 死んでもブラックとか勘弁してくれ。

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ブラックマッスル 今福シノ @Shinoimafuku

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