王国最強13主の1人『体の主』は、筋肉で最高となった男!

とざきとおる

大いなる魔法使いマッチョ、体の主ウオッグ

 魔法の国、タートルリベリアを守る最強の13主。王立魔法騎士団のトップオブトップの彼らは王国守護の公な最後の砦である。


 そんな彼らに師事をしたい士官学校の見習いたちは多い。当然ながらコネを作るという意味で13主に気に入られることはその先の人生を有利に進めるのに役に立つことには違いない。


 あるいは純粋に魔法を極めたいがために知見を得る目的で、13主の元に来るのも間違いではない。


 どんな主がいるのか、というと、名前を上げるだけでも13人なので詳しく言う余裕はないが、名前を上げるくらいならいいだろう。


 普の主、グランレビオ―。

 悪の主、ディレイ。

 炎の主、オートグレイル。

 水の主、ティア。

 草の主、メリオル。

 雷の主、パモチュ。

 泥の主、ハンス。

 幽の主、ヘカテリア。

 体の主、ウオッグ。

 鋼の主、ピーゴゴウ。

 岩の主、ギャレックス。

 氷の主、クリーム。

 妖の主、モルガーナ。


 13主が得意とする魔法がこの呼び名だけでわかるようになっている。


 今回はそんな13主のうちの1人、体の主、ウオッグのところに新入生がやってきてしまうことになった。






 王立魔法騎士団士官学校、2年生のアイナは中間試験の成績で見事学年8位に入賞した。


 学年の上位10人に入った人は13主が不定期で行っている魔法ゼミへの見学を許される。


 13主は3年生前期終了の段階までの成績を見て、見込みがありそうな生徒を自身の研究室へと迎える。1位から3位まではスカウトがなくとも、どこかの研究室に強制配属となるのだが、それ以外はスカウト制。


 学年トップ10に入ったアイナは積極的に見学へと赴き、13主に自分の名前を売りに言っておけば、スカウトされる可能性は高まる。


「で……早速最初にアポが取れた研究室の前に来たわけなんだけど……」


 妙な感覚がした。


 間違いなく体の主の部屋の前にやってきたはずなのだが、妙に蒸し暑い。本当はこっちが炎の主の部屋なんじゃないのかと勘違いしそうだ。


「でも、場所はここで間違いない……」


 アイナはものすごい嫌な予感がしたのだが、場所に違いがないことを確認するとノックをする。


「おう! 誰だ!」


「失礼します。学生1年のアイナです」


「アイナくんか! 待っていたぞ! はいってきたまえ!」


 すごいボリュームの声にビビったアイナだったが、心を整えなおして突撃した。


 そこには――。


「ふん。ふん。んぅう」


「はい、限界を超えた先に筋肉は生まれるよ!」


 ダンベルを持ち上げる細マッチョと、めっちゃどでかいゴリマッチョの人がいた。


「まじぃ……?」


「君がアイナくんか。うちは女子生徒も大歓迎だよ」


 ここは、違うな。とアイナはファーストインプレッションでそう思った。






『健全で頑強な肉体に強い魔法は宿る!』


「脳筋だ……」


 体の主ウオッグの部屋の上部には力強く書かれた紙が浮かんでいる。


「うちの研究室は筋肉を作る効果のある飲み物は飲み放題だ」


 謎の福利厚生に苦笑いしかできないアイナ。


「まじか……魔法研究室とは思えない……」


「おお、感動してくれたか」


 研究生はものすごく疲れている。


 道理で熱いと思った。人体が熱を放っているからだ。


「私には合わないかも……」


「そんなことはないぞ。その細い体も俺が示した筋力トレーニングで美しいボディへと早変わりだ。そこのゼミ生も前は細かったが、今は見事なもんだろう?」


 この場合、美しいボディというのはマッチョのことだろう。アイナは別にそうなりたいわけではない。


「あはは……」


 しかし偉大なる13主がわざわざ時間を取ってくれて応対してくれている手前、悪口は言えたものではない。アイナは恐る恐る差し出された飲み物を飲んでみる。


(おいしい!)


 筋肉を作るためならまずいのも致し方なしとか言い始めるんじゃないかと思っていたため、それはアイナにとってとっても意外だった。


「さ、見学の子にうちのゼミの紹介をしなければ。パンフレットをもってこよう」


 立ち上がり、自分が普段使っている席の裏にある箱をがちゃがちゃし始める筋肉の主、否、体の主。


 その間にゼミ生が1冊の本を持ってきた。


「これは……」


「ウオッグ先生の研究テーマにもっとも近い本だよ」


 アイナにとっても、ある場所でのバイトの経験がなかったら読めなかった本だが、書かれていた内容に感心しまくった。


 13主の魔法使いとしてノブレスオブリージュを遂行する。


 体の主として努めるべきは、人々を守る自営の術。


 ウオッグが開発した新魔法、パフェクボディーは自分の代謝力に比例する防御力を手に入れる魔法。これにより、体を動かす健康習慣と共に国民が戦時も命を落とす可能性を限りなく低くすることができる。なぜなら防御力を上げれば騎士団が来る前までの時間を稼げるから。


 この魔法のさらなる効率化を目指し、己の体で、あるいはゼミ生の体を使って研究を進めている。


「筋肉の魔法にそんな力が……」


「なんでも、昔、ある本屋に偶然入ったときに見つけた魔法から発想を得たようだ。そこの元魔法使いの店主の知恵を借りて、なんとかありつけたそうだよ。それで先生は13主に選ばれたんだ」


 その本の店主をアイナは知っている。


「いやあ、あの時はうれしかったな。筋肉は無駄じゃない。健康だけじゃなく、魔法にも貢献できるのだと分かった。そこの店主さんにも、君は素晴らしい発想の持ち主だ、ぜひ協力させてくれ、と褒めてもらった。あれがきっかけで私は自信を得ることができた」


 13主は座り、アイナにパンフレットを渡す。


「私はね。国民を守り、国民に尽くす、そんな騎士にあこがれた。そうなれるきっかけなんだ。この体魔法の発見は」


 力こぶを見せつける13主、アイナは愉快で、でもすごい人なのだと評価を改めた。


 この魔法も、この筋肉も、等しく万人のために役立ってるのかと。


「13主、ちょっといいですか」


「お、失礼」


 眼鏡の女性に呼ばれ、少し席を外すウオッグ。


「あの、今の人」


「俺の先輩だよ。美しい……」


 今の人はマッチョではなくスレンダーで美しいかった、と感想を抱いたアイナは、この研修室も悪くはないのかも、と思い始めたのだった。

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