第2話

「あなた死んでませんよ?」

そう言われた。私は、確かに睡眠薬を飲んで自殺した。死んでいるはずなのだ。死んでいないはずが無いではないか。何かの間違いだ。

「それはおかしいです。私は、確かに死んだはずです。」

死んでいる。その言葉を口にしたとき何故か心が苦しくなった。未練や後悔はないと思っていたが、どうやらそうではないようだ。普通に、後悔をしている。

「…っ!」

気づいたら泣いていた。認めたくなかったのに。ここの受付らしい彼は私を見て少し動きを止めた。

「すみません…」

悔しかった。あんな世界に後悔をしていることに。その悔しさあまり泣いてしまうとは…。情けない。そう思った。

「…先程も言ったとおりあなたは今、死んでいません。ここは、黄泉の国でとても危険です。戻ったほうがいいでしょう。」

少し険しい声でそう彼は言った。確かにそうだ。ここは黄泉の国。私のような自ら望んだ死ではない人たちが多い。そのような死人のうちの数人は悪霊となり、生きている人の魂を喰らう。そう、お父さんが昔言っていた気がする。うちは代々神主の家系のため、そういうのには詳しい……はず。とにかく、私は恐らく半霊のためこの場にいれば魂を狙われる。…でも、戻りたくないんだよ。

「……戻る以外に方法が一つあります。」

そう彼が言った。さっきとは違い少し柔らかい声。

「魂を別の場所に隠して、ここで働くことです。」

「魂を別のところに?」

そんなことができるのだろうか。それこそ、死んでしまわないだろうか。死んでるけど。

「死神に魂を預けてもらうんです。それも、普通の死神じゃなくて俺の友達です。そのようなことができるのは、友達しかいません。」

と彼は、にこやかに言う。

「彼が魂を預かっているので、いつでももとに戻れます。それに、見た目や雰囲気は幽霊と同じなので大抵の者にはバレません。ですが、勘のいいやつもいます。そのような奴らから守るためにここで働いてもらうことにはなりますけど。」

とも、続けた。つまりまとめると、魂を預かってもらいここで働けば、ほぼ安全というわけだ。別にここで働きたくないわけではないし、あっちに戻るのも嫌だった私は、彼に向けはっきりと、

「お願いします!」

と言った。

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