スプーン

あsu

PROLOGUE

愛すべき人が世間の「普通」じゃなかったら

僕はこの愛をどう捨てればいいのだろうか。


高校デビュー。

新しい場所ではじまるストーリーに胸を膨らませ、

僕は「いい子」を演じた。

しかし、本当の性格は直すことはできなかった。

臆病で、目立つことが苦手で、自発が苦手。

活発だったあの頃に、戻りたいとは思わないけれど、あの頃のほうがマシだったとは思う。

言いたいことが言えない。

今は自分が二人いるような感覚だった。


嘘を吐くのに罪悪感を感じない。

背徳感もない。それが僕の普通。

ただ、隠すために必死な自分に呆れるだけ。

それだから、いつからか僕は僕に騙されていた。

初めは自分の快楽の為に嘘をつくことが多かった。

宿題終わったよ。友達と勉強してきたよ。

勉強一択の両親に毎日のように嘘を告げていた。

しかし、いつからか僕自身にも嘘を言っていた。

僕はいい子。優しい子。僕は勉強が好き。

僕は普通。僕は家族と仲が良い。僕は泣いてない。

___僕は愛されている。


でも、そんな嘘を見破ることは簡単だった。

自分を信じない、今を見て生きる。

それが誰も信じられない僕だったから。

全てを知ってしまった僕が生きる意味が理解ができない。消去が早まるだけ、結局皆消える。


元カレがギターをやっていた。

その影響ではじめた音楽は僕の日々の救いになっていた。ただ、彼の姿をふと思い出してしまう、そんなものになったことにも変わりはなかった。

そして、そんな音楽は僕を苦しめる一つの恋を生み出す物にもなった。

ボーカルの君の声は透き通る綺麗な声で、僕の心を独り占めした。一目惚れだった。


『なるみちゃんは私のことを何も知らない』

知ってるよ、君が嘘吐きだってこと。

だって同類だもの。


『君は恋に恋してるだけ』 

じゃあなんでこんなに僕は苦しいの?

君が僕をどう思ってるのか。

ただの後輩なのか。ただの友達なのか。

君のすべてを知りたいの。

僕のすべてを知ってほしいの。

君の一番が欲しいだけなの。


もう、疲れたの。君を見るだけで胸が苦しいの。

生きててよかった、とは嘘でも言えないけど、

楽しかったって言って終われる人生にはなったんじゃないかな。

これも嘘かもしれないけれど。


そんな恋が怖かった。


小さな事に怯え、苦しみ、理由のないまま消えていく。ただ事実が怖いだけじゃない。

その事実を知る僕と、慰める君が怖いだけ。


もしこの恋が叶うなら、僕は僕を愛せるだろうか。



これは僕が僕を愛すまでの、小さな恋と愛の物語。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スプーン あsu @Asu00634

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ