第17話 夏奈視点 後半
同性が好き、と言う告白は秋葉にとってはなんでもないことだろう。なのに秋葉は、手を取って喜んでくれた。その様子にますます好きになってしまって、もしかして、と言う希望が私の口を軽くさせる。
関西人で、明るくて、優しくて、趣味があって、一緒にいて楽しくて、同じくらいの背丈で。
なんて、全部、秋葉のことだ。
気付いてくれるだろうか、なんて浅ましい考えは伝わっていないみたいだけど、それ以上に秋葉は素敵なことをしてくれた。
「うん。急にこんなこと言うのもあれやねんけど、私、好きになった人がタイプって言うたやん?」
「うん」
「今のタイプ、夏奈、かも」
そう、まっすぐに私の目を見て、言ってくれた。
「えっ? ……えっ、そ、それって」
あまりにも突然の言葉に、私はすぐに理解できなくて、でもその嬉しい言葉は私にじわじわとしみ込んでくる。
私が、秋葉のタイプ? それってつまり、私が今、秋葉の好きな人ってこと!?
「あかん? うちのこと、眼中にない感じ?」
「そ、そんなことない」
ちょっと不安げに見つめてくる秋葉は可愛さもあって、私の胸はドキドキと高まってとっさに否定して、でも否定すると言うことは、つまり、イエスの返事だ。
「うん。私も、いいなって、思ってる」
私はドキドキしすぎて死んじゃいそうなくらいだけど、なんとかそう返事をした。いいなって、いつからかわからないくらい最初からずっと、いいなって思ってた。
「そうか!」
ぱっと、私の言葉に秋葉ははにかみながら満面の笑顔になった。その夜の闇を吹き飛ばすような笑顔は、私にときめきをくれた。その素直な反応こそ、私が憧れ、胸を焦がすものだ。
「あ、ごめん、おっきい声だして。嬉しくてつい」
「ううん。ふふ。そう言うまっすぐなとこ、好き」
その感情のまま、今度こそ素直に私は思いを口にできた。すると秋葉は目を輝かせてくれた。私の気持ちで、喜んでくれた。
「あー、もう、夏奈、なんなん、可愛すぎるやんっ」
「ひゃっ」
そして嬉しそうに私にすり寄って、頬にキスをした。その積極的すぎる姿勢にドギマギしてしまう。
嫌なわけじゃない。もちろん、好きな人だ。でも、頬とは言え、いきなりキスなんて。
「なぁ、次は口にしてもええ?」
そう戸惑う私に、秋葉は私の腰に手を回して体を寄せ、触れ合う距離でそんな大人なお願いをしてくる。
あ、あわわわわ。き、キスなんて!
もうとっくに成人していて、子供だと思われるかもしれない。もしかして秋葉は過去に何人も恋人がいて、なれているのかもしれない。恋人になればキスくらい当然で、しないと物足りないのかもしれない。
だけど、私はそうじゃない。キスなんて、想像することはあっても生まれて初めてなのだ。
頬にされるだけで、私の心臓は信じられないくらい暴れていて、これ以上するなんて考えただけで死んじゃいそうだ。
びっくりして距離をとる私に、秋葉はなんとさっき私を好きになったと言う。
ど、どういうことなの? いや、もちろん私みたいに前から私を意識してくれていたなんてうぬぼれてるわけじゃないけど、ついさっきって。即行動すぎる!
そう言う行動力をさすがだなって、尊敬するって思っていたけど、限度があるでしょ!
私の断固とした拒否に、秋葉は残念そうにしながらもけして空気を悪くしないように軽い調子の声をあげる。
「えー。じゃあ私の中の、この夏奈の可愛さに燃え滾る思いはどうしたらいいん?」
「もっと燃やしておいて。……明日、デートしてから、ね?」
その感じに私もほっとしながらも、そうなんとか答えた。
とてもじゃないけど、今すぐなんて身が持たない。だけど、ずっと拒否をして秋葉をがっかりさせることもできなくて、私はそう、明日の私に譲ることしかできなかった。
「うーん。わかったわ」
そんな姑息な私に秋葉はなんでもないように頷いてくれた。それにほっとしながら、それでもせめてもの気持ちを伝える。
「あの、告白してくれて、ありがとう。これから、よろしくね」
私じゃあ、告白の勇気なんて出なかった。少し匂わせるだけで、あなただなんて言えなかった。だけど秋葉は簡単に私が勇気が出なくて出せなかった一歩で簡単でに飛び越えてくれた。
そんな私に秋葉はにかっと気持ちよく笑ってくれる。
「告白ってお礼言うもんか? こちらこそ、受けてくれてありがとうな。私も大好きやで。末永くよろしゅうな」
す、末永く! 末永く。秋葉は、さっき思いついて告白してくれ立って行っているけど、その思いは今だけのお遊びじゃなく、ちゃんともっと重いものだって思ってくれているんだ。
その言葉は私に、どうしようもない安心感をくれた。
この人を好きになってよかった。秋葉なら、もっと好きになって、溺れていっても、この心を任せても、大丈夫なんだ。
私はこの後、明日のデートはもちろん、今こうして秋葉と手を繋いで横になっている現実にどきどきして、中々眠ることはできなかった。だけど寝不足になるとしても、こんなに幸せな夜はもうないだろう。
そんな風に幸せを噛みしめていたら、いつの間にか私も寝ていた。
そして翌日、生まれて初めてのデート、そして生まれて初めてのキスをして、私はもっともっとこの世には幸せがあるのだと、これから先もずっと秋葉に教えてもらうのだった。
おしまい。
阪神甲子園球場で野球を見るのって最高に楽しい! 川木 @kspan
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