好きなように、ワタシの肉体を――!

八五三(はちごさん)

これは急性アルコール筋症、だ。

 もう少しだけ、もう少しだけ、という悪魔の誘惑に飲み込まれてしまった。

 あるところで、それはそれはとても、お強く婀娜あだな用心棒をされている方のあまりにも――肩身が狭い話を一つ。



 犍陀多カンダタという名の粋な人物がいました。

 独り立ちして巣の張り方に、困っている蜘蛛くもを見つける。と、分かりやすく、でも、論理的に巣の作り方を教えてあげる――心優しい人物でした。

 多くの蜘蛛たちから、犍陀多は慕われていました。何せ、蜘蛛の糸を操る技術を惜しむことなく、伝え教えたのです。

 蜘蛛は糸で巣を張って獲物を捕らえ、喰らう、それが蜘蛛の心象。

 だが、

 蜘蛛の種類のうち半分は、巣を作らない。代わりに、地面や植物の上を歩いて、獲物を探したり。花の上で獲物を待ち伏せをし、襲ったり。して、生活をしている。


 蜘蛛たちのなかでも、糸を操り、住居と罠を組み合わせた――あみ。は、己の個性と技術力の結実。

 で、

 アイデンティティ。


 網の張り方のデザインを追求する――建築士であり。複雑模様の巣を数分から二時間もしないで、糸で作り出す――大工職人でもある。

 罠にも策略として、穴居トンネル型、円あみ、立体網、受信じゅしん糸網しもう。など、多種多様あり用意周到な――狩人。

 ただし、

 長く生きた蜘蛛たちは、苦労して磨き上げてきた。個性と技術を簡単に他の蜘蛛たちに、教えることはしなかった。

 それは自分の生きてきた誇りを手放すことへの――狼狽ろうばい

 しかし、

 犍陀多は、蜘蛛と同じ糸の使い手として。蜘蛛たちに問いかけたのであった。


「命は消え、去り、無に帰す。だが、後世に伝え与えることで、お前たちの個性的デザインや考案した技術は――永久に存在することができる。だから俺は――永久に犍陀多という人物を存在させたい。からこそ、惜しまず教え与えることにしている。

 あと、

 俺の欲だ。が――新たな可能性を生みだしたい。それだけだ」


 人として壮麗そうれいな犍陀多の言葉。を、受け入れることにした。蜘蛛たちは、後輩たちへ技術継承をするようになったそう、な。




 ある日、福利厚生部の食堂から、ぶらぶらと仕事場である法務部に向かって歩いていると。憩いの場である、公園――極楽ごくらくのなかに設置されている噴水、蓮池はすいけに目が。

 休憩時間がもう少し残っているので、噴水に腰を据え、蓮池はすいけのなかの容子ようすのぞき見て――釈迦しゃかは仰天した。


 犍陀多が罪人と一緒に、汗水垂らし罪を償う労働をしていたのでした。


 釈迦は同じ法務部で働いている、閻魔大王に掛け合ったのです。


「前世での行いから、地獄に落ちていることは知っていた。が! なぜ? まだ!! 地獄に」

 と。


 閻魔えんま大王だいおうは、釈迦に。


「いや、いや。あのね、釈迦。ワタシは、犍陀多には神才じんざいがあるから、すみやかに天国で手続きするように伝えた、の。でも、犍陀多は。

『感謝致します――閻魔大王。しかし、善し悪しは別建べつだてでございます。命を奪ったことに違いはございません。だからこそ、報いを受けてから天国へと考えております』。

 ですって。ワタシにどうしろっていうのよ、あんな模範囚もはんしゅう。閻魔大王として逆に扱いにくいわ!」


 微かに嘆息たんそくしながら釈迦は、何気なく頭のなかで考えていたことが、口から……。


「あの方、究極神に相談してみては。一応、肩書――最高経営責任者CEOです、し」

「うーん。へっぽこ神CEO、か」




 釈迦と閻魔は、究極神に相談しました。

 究極神は二つの提案を出しました。


 一つは。

 知り合いの主神しゅしん、戦争と死の神の眷属けんぞく。で、“閉ざす者”、“終わらせる者”。に、案を出してもらうこと。


 もう一つは。

 究極神である自分の眷属。で、“多くの思慮を兼ね備えている”。に、案を出してもらうこと。


 ――でした。


 釈迦と閻魔は、相談する神を間違えたことに気づきました。伊達だてにこの宇宙せかいで、究極神を唯一無二、名乗ることができる神だけのことはあります。


 釈迦と閻魔は、断ることを申し出ようとしたときでした。


「もう、連絡したから。返事、待っていて」


 釈迦は始終、悲しそうな御顔をされていました。

 閻魔は慣れ切っているの。か、平然としていました。



「どっちからも連絡の返事きたよぉー。ぁ、内容も同じだ。さすがは、秩序を破りトリックスターだけのことはある、わ。で、提案内容は。翡翠ひすい極楽の蜘蛛を助けさせるために、糸を掴ませて、切って――もう、一つの地獄に落とせばいいって!」

「…………」「…………、…………」




「こ、このっ、放しなさい! ぐうっ」


 白くしわのない完璧にベットメイキングされた上で犍陀多は、女性の肉体を糸で拘束していた。

 キリッと気の強い表情を犍陀多にする。が、ギリギリと糸はより強く締めながら肉体に絡みつき、身動きを取れなくさせていく。

 犍陀多が十本の指先を操ると糸は、コントロールされ。女性の肌を傷つけないように這いながら、女性の姿勢の形を変えていく。

 鳥肌が立ち、美貌びぼうは血の気が引いていく。


「ちょ、ちょっと。わ、わたしにこんな破廉恥はれんちな格好させて! 覚えてなさいよ!! 犍陀多!!! さ、さ、さわるなーぁーあ」


 頬を真っ赤に染めながら、ルチフェル――吠えた!


 薄ら笑いを浮かべながら、犍陀多が。


「こ・れ・は……筋肉痛じゃないな。アルコールによって筋繊維きんせんいが、ダメージを受けたときに起こる――急性アルコール筋症だ! 馬鹿ばか!!」

「きゅう、せい。ぁるこーる、きんしょう? きん、にく、つう、じゃー。な、く、て!?」

「筋肉の感触が、全然違う」

「いたい……ん…………ですけど………………」

「はぁー。緑茶の効果に近い茶葉で、茶をれてやるから。それを飲んで――寝ていろ、おとなしく、ルチ」

「……犍陀多……。ありがとう」

「礼はいらん。寝ゲロされて。掃除する俺の身からすると、楽だからな。何せ、ティーポットに茶葉を入れて、湯の温度を気にするだけの仕事で済むからな」

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好きなように、ワタシの肉体を――! 八五三(はちごさん) @futatsume358

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