俺は彼女を守るために、何度もループして筋肉を鍛えることにした(結果報告)

ひなた華月

ついに俺は筋肉で彼女を救うことができた……その後の話


「うん……分かった。そっか……そうだったんだね」


俺がこれまで起こったことを全て話すと、彼女は深刻な表情を浮かべながら頷いた。


加奈かな……信じてくれるのか? こんな突拍子もない話を……」

「……うん。だって、真司しんじくんがそんな嘘つく必要なんてないだろうし……」


そして、彼女は地平線に沈む夕陽を眺めながら呟く。


「……今、私が死んでいないのは、真司くんのおかげなんだね」


そう告げた彼女に向かって、俺は「そうだ」と答えた。

そして、改めて俺は彼女に事の経緯を全て話す。


「……加奈は、どうしてか俺と付き合い始めてから悲劇に見舞われるようになってしまったんだよ。そのせいで……何度も命を落としそうになって……」


話している途中に、俺はあまりに凄惨な出来事の連続が起こったことを思い出して、顔をしかめてしまう。


高校生時代、校舎裏で加奈への告白が成功し、無事に恋人同士になった瞬間に校舎の窓から植木鉢が落ちて来て彼女の頭に当たってしまったり、大学生で一緒に海外へ旅行に行ったときは、首輪が外れた大型犬が襲ってきたり、挙句の果てには社会人となり一人暮らしを始めた加奈の家に隕石の欠片が落下するようなことが起きてしまったのだ。


「……だけど、そんなことが起こるたびに、真司くんは、それが起こる前の時間に戻ることができた……と」

「ああ……」


正直、どうしてそんなことが起きたのかは、今の俺でも分からない。

だけど、加奈に悲劇が起こるたびに、俺は頭の中で願ったのだ。



ああ、神様。

どうかこんな現実は、なかったことにしてください。


すると、そう願った途端、俺はその悲劇が起こった日の朝に戻ってくることができていたのだ。それも、何度も何度も、同じことが出来たのだ。


「……つまり、真司くんにはタイムリープができる力があるんだね」

「……うん」

「でも、私に何もない日には、その力は使えなかったと」


加奈の言う通りで、このタイムリープの力は、俺が自由自在に使えるものじゃなくて、俺が同じように過去に戻りたいといくら願っても、加奈に何もなければ次の日はやってくるのだ。


「それでも、私は100回以上は危ない目に遭ってるんだ……」


そう呟く加奈自身は、きっと実感はないのだろう。

だけど、俺はそれでいいと思っている。


本当は、俺がタイムリーパーであることも伝えるべきではないのだろう。

それでも、俺が彼女に真実を伝えたのには、理由があったからだ。


「加奈……俺は……これからも傍で加奈を守りたいんだ。たとえ、どんなことがあっても、俺が君を必ず守り抜く。だから……」


俺はポケットから小さな箱を取り出して、中身を彼女に見えるようにして開く。



「加奈。俺と結婚してください」



そして、箱の中身である結婚指輪を差し出しながら、俺は彼女に告げた。

すると、彼女は俺がタイムリーパーであるという事実を耳にした時よりも驚いた表情を浮かべていた。


だけど、俺の覚悟はもう決まっていた。

俺は加奈と、一緒に人生を添い遂げると決めたのだ。

その為の力も、今の俺にはちゃんと……。



「…………ごめんなさい。それは、ちょっと無理です」



……………………ん?


「……えっ? ごめん、今、なんて?」

「いや、だからごめんなさいって言ったんだけど……」


すると、彼女は気まずそうに俺から顔を背けながら話す。


「……そりゃあ、真司くんが私を助けてくれたのは信じてるよ。だけどさ……えっと……」


そして、彼女は覚悟を決めたように、俺に言った。



「正直、筋肉がムキムキな男の人って全然タイプじゃないのーーーー!!」



立ち上がって大声で叫んだかと思うと、その勢いのまま俺に告げる。


「なんかさ! 途中からおかしーなって思ってたの! どんどん規格外のムキムキな体格になったかと思うと、私の家に来ても急に筋トレ始めるし、デートに行っても食事は糖質抑えてるからとかいって全然一緒にご飯食べてくれないし!」


今までの不満が爆発するかのように、彼女は一気にまくしたてる。


「大体! 今真冬だよ!? それなのに、なんでタンクトップ! ダサい! 超ダサい! 一緒にそれで街を歩く私の身にもなってよ!!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、加奈!」


このままでは埒が明かないと思った俺は、一度彼女の話を止めて、ちゃんと説明をすることにした。


「服装のことは謝る! 正直、自分の鍛えた筋肉を輝かせるためには、この服装が一番だと思って……いや、ごめん! 怒らないで!? ただ! なんで俺が筋肉を鍛え始めたのかというと、それは加奈を助けるためなんだ!!」


そして、俺もまた今までのため込んでいた想いをぶつけるために、彼女に告げる。


「俺は過去に戻れるけど、未来の加奈に何が起こるか分からないんだ! だから、筋肉を鍛えていれば、大抵のトラブルは加奈から守ることができるんだよ!」

「いや、なんか起こるなら、それを回避するように説明すればいいだけじゃん!! なんでわざわざ自分の力で守ろうとするのよ!! もっと効率よく私を救う方法があるでしょうが!!」


俺の説明にも、怒り心頭のまま彼女は言った。


「しかも、真司くん言ったよね!? 私に不幸が起きるようになったって!! それ、私すっごく心当たりあるんだけど! 真司くんと付き合い始めてから、私が見る星座占いはいっつも最下位だし、宝くじどころか福引すら何も当たらなくなったんだよ!!」


彼女曰く、俺と付き合うまでは運がいいほうの人生を歩んでいたらしい。

それなのに、俺と一緒にいるようになってからは、その強運もどこへやら、小さな不運がずっと続いているそうだ。


「……待ってくれ。なら、どうして俺と付き合ったままでいてくれたんだ?」

「何度も話そうとしたよ!? だけど、その度に真司くんが『加奈が生きてて良かった……!』って泣き出すから、言うタイミングがずっとなくて……」


どうやら、加奈が別れ話を切り出そうとする日に限って、それは俺がタイムリープをして加奈を救った翌日の出来事だったようだ。


「……だから、もうはっきり言うけど、私、真司くんと別れたい」

「そんな……! 待ってくれよ、加奈!」

「……ごめんなさい。私、寒いからもう帰る」


そういって、加奈は俺を元から去っていった。

だが、加奈は最後に、こんな言葉を言い残した。


「……助けてくれたことは感謝してるけど、筋肉は絶対にそんなに必要なかったと思うよ」


俺は、もう一度、自分の上腕二頭筋を見つめる。

高校生の頃から鍛え上げられた肉体は、まさに誰も文句がつけようがないくらいの見事な仕上がりをみせていた。


だが、その筋肉で守るはずだった彼女は、自らの意志で俺の元からいなくなった。



ああ、神様。

どうかこんな現実は、なかったことにしてください。



俺は沈む夕日に向かって涙を流しながら、そう願い続けた。




だが、翌日。

何事もなかったかのように、そのまま朝を迎えた。


そして、俺と別れた彼女の身には、何一つ不幸なことが起こらないどころか、先日、宝くじを買ったところ1等に当選して、その後はそれを資金に事業を展開して、今や世界の名だたる経営者の一人に交じって世界を動かしているそうだ。




そんな彼女の活躍を聞きながら、俺は今日もジムで身体を鍛え続ける。


たとえ、彼女が俺の元から離れてしまっても、俺と共に彼女を救い続けたこの筋肉あいぼうは、決して裏切ることはないのだから。




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俺は彼女を守るために、何度もループして筋肉を鍛えることにした(結果報告) ひなた華月 @hinakadu

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