転生したらあそこが筋肉だった件(KAC20235)
つとむュー
転生したらあそこが筋肉だった件
鳥の鳴き声で目覚めると、森の小屋の窓からはすでに朝陽が差し込んでいた。
「ふわぁ……」
伸びをしながらベッドから体を起こす。
新しいこの世界はとても気候がいい。暑くもなく寒くもなくまるで天国のようだ。
「さて、昨日の筋トレの成果はどうかな?」
一つ呟くと、俺は素っ裸のまま姿見の前に立った。雄族のシンボルであるあそこはだらりと垂れ下がっている。
「くっ!」
息を吸い、小さな掛け声と共に局部に力を入れる。
すると突起はたちまち硬くなり、重力に逆らうように先端が宙を向く。
ふうっと力を抜くと、あそこは硬さを失い再びだらりと垂れ下がった。
「すごいぞ、ここまで大きくなった!」
そうなのだ、この世界の雄族のシンボルは筋肉でできている。
俺が異世界に転生して一ヵ月が経過した。
横断歩道を渡っている時に、軽トラにはねられたのだ。
そういえばあの軽トラ、ブレーキをかける気配は全くなかった。それどころか逆にエンジンをけたたましくふかしていたような気がする。
それってペダルの踏み間違いじゃ……なんて考え終わらないうちにはねられてしまったのだ。今思えばそんなこと考えずに逃げればよかった。が、後悔後に立たず。俺はこの新しい世界に転生することになった。
転生してみると、ここはとても居心地が良かった。
気候もよく、裸で寝ても風邪をひくことはない。
人間界と同じく雄族と雌族がいて、みんなとても優しくいじめも存在していないようだ。
生活は基本的に自給自足。食べ物は、森の中で自分で調達する必要がある。が、裏を返せば、それさえ達成できればあとは自由気ままでいられるということになる。
そして人間と決定的に違うのは、雄族に付いている突起状のシンボルだった。普段はだらりと垂れ下がっているが、力を入れると一瞬で硬くなることに気が付いた。
「これって、もしかして……筋肉なのでは?」
この予感は的中した。
力を入れたり抜いたりを繰り返していると筋肉痛になったからだ。あのけだるい感じが俺の局部を包み込む。
しかしこれは自分にとっては都合が良かった。というのも自分次第で成長させることができるから。
——筋肉は友達。筋肉は裏切らない。
人間界にいる時、嫌というほど聞かされてきた教訓だ。
その日から俺は、食料を調達した後はずっと筋トレに励むことにした。
これは余談であるが、もしかしたら雌族のシンボルの二つの突起も筋肉なのかもしれない。が、恥ずかしくて俺には質問する勇気がまだ湧かなかった。
筋トレの方法はこんな感じだ。
まず突起の先端に紐を括りつけ、その反対側を手すりに結んで紐をピンと張る。
そして両手で手すりを持ち、ぶら下がるようにしながらぐっと突起に力を入れるのだ。
その瞬間、突起は硬くなり体が引き寄せられる。つまり、あそこを使った懸垂だ。
この筋トレの良いところは手すりを持つ手の力を変えることで、筋トレの付加を調整できること。最初の頃の俺は、ほぼ両手懸垂の状態だった。
「筋肉は友達。筋肉は裏切らない」
くじけそうになった時はこの言葉を繰り返す。今は無理でも努力を続ければ、筋肉は必ずそれに応えてくれる。
そして俺は、次第に三点懸垂ができるようになったのだ。
筋トレをしながら俺は思う。
人間の時の体の悩みというものは、容姿を除けば「大きい」「小さい」「多い」「少ない」の四単語に集約されていたんじゃないかと。
それを救うのは筋肉しかない。アレも、あそこも、髪の毛も全部筋肉でできていればいい。そうすれば生まれつきや加齢で生じるコンプレックスは、筋トレですべて解決することができる。
まあ、もう人間じゃないから関係ないんだけどね。
俺はあそこが筋肉の世界に転生した。これほどまでに理想的な世界があるだろうか。ならばやることは一つ、努力するのみだ。
「むふふふふ、これでやっと雌族にアピールできる」
鏡を見ながら俺は確信する。
力を入れた時の俺のシンボルは、硬くて太くて立派で見事に宙を向いていた。
この力強さがあれば、雌族を振り向かせることができるに違いない。
服を着て街に出掛けると、早速向こうから雌族が三人こちらに歩いてきた。
三人とも若くて可愛い。ちょっと垂れ目だったり、二重ぱっちりだったり、スッキリ凛々しかったり、いずれも俺の好みのタイプだ。
さあ、この時が来た。筋トレの成果を発揮するのは今。
「くっ!」
すれ違う数秒前、俺はシンボルに力を入れる。
刹那、三人はこちらを向いてぽっと頬を赤らめた。そして憧れの目線で俺のあそこを注視する。
やった、やったぞ。ついに俺は、雌族を振り向かせることに成功したんだ。
やっぱり雄族のシンボルは硬くて太くて立派じゃなくっちゃね、鬼に転生したからには。
了
転生したらあそこが筋肉だった件(KAC20235) つとむュー @tsutomyu
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