第394話 予感
◇◇◇
「ん?反応が消えたな。それに亀裂も」
シャルエナたちとフェルマの戦いが終わった後、シャルエナが兄妹であった第三皇子の弔いをしているのを眺めていると、戦況を把握するために展開していた魔力感知の魔法に反応のあった魔族とシュードたちの魔力が突然消え去り、さらには目の前にある亀裂を始めとした各地の亀裂が同時に消滅する。
「亀裂が消えたってことは、魔法を使っていた悪魔が死んだってことか。だが、魔力の反応的にはシュードの方が追い詰められていたようだったが、いったい何があったんだ?」
俺の魔力感知が正確であれば、途中でライドが動かなくなったため気を失ったと見られ、シュードも聖剣の能力を発揮できずに敗北し、それからは動くことなく悪魔によって嬲られていたはずだ。
自分の目で見たわけではないため正確なことは言えないが、シュードの魔力が途中から動かなくなったのに対して、相手の方はずっと動いていたのを見るに、おそらくこの推測に間違いはないだろう。
ただ、そうなると誰がシュードたちと悪魔を消したのかという話だが、帝都全体に展開している魔力感知によれば、シュードたちは学園の救護班の近くに移動させられており、悪魔に至っては帝都のどこにも魔力が感じられず、しかも亀裂が消滅したことから察するに、殺されたのは確実だ。
しかし、俺の魔力感知にはシュードたちが消える前から消えた後も、あの三人以外の魔力反応は無く、まさに神隠しにでもあったかのように一瞬で消え去ったのだ。
「それに、方法も分からないな。時空間魔法は今のところ俺しか使える奴がいないと思うが、他にも使える奴がいる可能性は捨て切れない。ただ、そうなると魔力反応すら感じられなかったのはおかしい。断絶世界を使ったにしても、そこだけ魔力反応が無くなるからむしろ気づくはずだが、そんな違和感は無かった。これはいったい……」
すぐにでも広間の方に行ってみることも考えてみたが、ここまで反応がなければすでに移動している可能性が高いため、おそらくは無駄足に終わることだろう。
「ただ、何だかこの世界の終わりが近い気がするな。なんて言うか、黒幕が動き出した的な」
実際に今回のことに絡んでいるのが黒幕なのかは分からないが、これまでの経験上、そろそろ俺の人生が終わりに向かっているような気がする。
何というか、これは本当に感覚的なものでしか無いのだが、悪魔と魔族による帝都の襲撃に加え、勇者がボコボコにやられる展開。
物語で言えば、まさに佳境での困難って感じがするし、最後の戦いが近いって感じもする。
「まぁ、そんな感じがするってだけなんだけどな」
「ルイス様。どうかされましたか?」
そんな事を考えながら一人で呟いていると、近くにいたアイリスが自然と俺の横に並んでそう尋ねてくる。
「んにゃ、何でも無い。それより、あいつらをどうするかね」
「ルイス様が『んにゃ』って。『にゃ』って、お可愛い……」
「アイリス?」
「あ、失礼いたしました」
隣で何かをブツブツと言い始めたアイリスだったが、俺が声をかけると驚いたように肩を弾ませると、気を取り直して俺と同じところに目を向ける。
「あいつらというのは、あそこにいる四人の魔族のことですね。来る時は彼らの後ろにあった亀裂を通ってきたようですが、その亀裂も消えてしまったようなので帰れなくなったのでしょう」
「みたいだな。あの慌てようを見れば、どんだけ焦ってるのかが伝わってくるよ」
そんな俺たちの視線の先には、フードを深く被って顔が一切見えない四人の魔族がおり、彼らは訛った特徴的な喋り方でワタワタとしていた。
「あー!帰れねぐなったべぇ!」
「というか、作戦自体が失敗したべさ!」
「あー、もう。また主人に怒られるだぁ」
「今度こそ殺されるべなぁ」
そんな彼らの事をしばらく眺めてみるが、その特徴的な喋り方やあの見た目は俺が魔族領に行った時に出会った転という魔族で、やはりいくら注視してみても不思議なほどに何も感じられない。
「あいつらの名前は?」
「起、承、転、結と名乗ってました。彼らをどうしますか?」
「そうだなぁ」
「捕まえればいいんじゃないかしら。どうみても弱そうだし、やろうと思えば何でもできそうよ」
「そうですね。捕まえて情報を吐かせると言うのも一つの手ではありますね」
手に鞭を握りながらそんな事を言うのは、まるで女王にでもなったかのような謎の迫力を身に纏うソニアで、その近くにはセフィリアの姿もあった。
「情報を吐かせるって言っても、あの様子だと次の作戦なんて無さそうにみえるけどな」
「なら、彼らがこの後の作戦を知らされていないだけで、本当の作戦は知らないって可能性は?」
「あり得なくは無さそうですが、その場合、どのみち捕まえる意味は無さそうですね」
「はい。アイリスさんのおっしゃる通り、作戦があってそれを知っているのであれば価値はありそうですが、知らないのならほとんど意味はありません。むしろ、そちらに意識を向ける事自体が悪手の可能性もあります」
「なるほどね。そう言われればそうかもしれないわね」
アイリスたちの話も尤もではあるが、俺としては先ほどまでこの場にあの亀裂を作った悪魔がいて、その悪魔がいた場所と同じ場所に彼ら四人がいると言うことがどうしても引っ掛かり、どうするのが正解なのか考えてしまう。
第一、あそこにいるうちの一人である転は、傲慢の直属の部下であり、権能所有者たちの集まりに代理で参加するほどの地位にいるのだから、何も知らないなんてことはあり得ないだろうし、何よりあの弱すぎる雰囲気がどうしても気になる。
「一度、話してみるのもありかもな」
「話すって…あの魔族たちと?」
「あぁ。ソニアの言う通り、見た感じあいつらは強く無さそうだし、何をしようがどうとでもできそうだから、まずは話してみよう。ただ、一応は警戒しておけ。それと、セフィリアはラヴィエンヌたちの治療を頼む。あいつら、結構ボロボロだしな」
「わかったわ」
「わかりました」
「はい。治療は私にお任せください」
それから俺たちは、もはや一歩も動けないのか、玉座の間の中央に座るラヴィエンヌたちに一声掛けて後のことをセフィリアに任せるが、その時シャルエナも話が聞きたいと言うので一緒に連れて行くことにし、俺たちは四人で転たちがいるところへと向かうのであった。
「なぁ。少しいいか?」
「んん?何だべ?」
俺が声を掛けると、四人の魔族は同時に俺の方を見て、三人はこの世の終わりを迎えたかのように震え出すが、転だけは少し驚いたように肩を跳ねさせる。
「あれ?ルイスさんだべか?」
「よう。久しぶりだな、転」
「おぉ〜!お久しぶりだべさ、ルイスさん!」
しかし、次に驚いた反応を見せたのは俺の隣にいたシャルエナたちで、俺が魔族と気軽に話し始めただけでなく、親しげに名前で呼び合っていることに驚いたようだ。
「イス。彼らの事を知ってるのかい?」
「まぁ、少しいろいろとありましたね。前に学園を離れて行動していた時に転と出会ったんですよ。他の三人は初めてですが」
「なるほどね」
まぁ、正確に言えば俺が魔族領に行った時に出会ったのだが、そこまで言うと本筋から話が逸れるし、何より魔族との繋がりがあると疑われたら、そこから今回の襲撃に俺が関与していると思われるのも面倒なので、余計なことは言わないのが吉だろう。
それに、実際今回の襲撃は最初こそ俺が誘導しようとしたが、結果的には悪魔と魔族が手を組んで勝手にやった事だし、知っていながら見逃しはしたが、それを誰にも知られなければ何の罪にもならないため、こっちの件についても黙っておく。
「それで?転たちはどうしてここに?」
「あー、それが。主人に言われて悪魔の方々と協力してここまで襲撃に来たんだべさ。けんど、その悪魔さんも負けてしまったみてぇで、帰る方法も無くなったんだべさ」
「なるほどな。じゃあ、これからどうするだ?多分だけど、このままここにいたら捕まるぞ。んで、拷問でもされて情報を吐かされた後は処分されると思うが」
「捕まって拷問は嫌だべさぁー!けんど、このまま帰っても主人に殺されるだけ。まさに板挟みだべさ」
「いやいや、板挟みは少し違うんでねぇがや。どっちかってぇと、究極の二択だべさ」
「けんど、どうすっぺな。捕まっても地獄、帰っても地獄」
「どっちも地獄だべさぁ〜」
四人はあぁだべさこうだべさと言いながらどうしようか悩んでいると、突然同時にビクリと肩を跳ねさせ、次に何かを諦めたようにため息を吐く。
「はぁ。もうダメだべさ」
「終わったべぇ〜」
「もう時間切れだどなぁ」
「仕方ねぇべ。元々、逃げることなんて出来ねぇべし。諦めるしかねぇ」
「どうしたんだ?」
そんな四人の反応が気になった俺は、理由を知るために転に向かってそう尋ねると、彼は申し訳なさそうにしながら自分の首元に短剣を当て、それと同時に他の三人も同じようにする。
「ルイスさん。申し訳ねぇんですが、どうやらワイたちはここまでみたいだべさ。迷惑を掛けて申し訳ねぇけんど、最後にこれだけは言っておくべ。早く逃げてけんろ」
「それはどういう……」
転の言葉の意味が気になった俺はその意味を尋ねようとするが、その途中で転と他の三人は同時に首を切り裂き自害する。
「あー、これ。ちょっとまずいかもなぁ」
すると、四人の体は死体になるのではなく赤黒い魔力の渦になると、その四つの渦は中心地点で重なり、一つの膨大な魔力の渦へと変わる。
「あは。どうやらまだ、終わってなかったみたいだな」
そうしてその膨大な魔力の渦は、玉座の間にこれまで感じたことのないほどの威圧感を放ちながら、ゆっくりと形が変わって行くのであった。
何度も死に戻りした悪役貴族〜自殺したらなんかストーリーが変わったんだが〜 琥珀のアリス @kei8alice
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