第4話
「はぁあぁぁ...」
雛とばったり本屋で会い、一悶着あった次の日。
いつも通りに学校に着いた俺は1人、大あくびをかました。
この朝の誰もいない時間というのは、とても素晴らしいものだ。
なにせ誰もいないため、とても静か。よって、読書が進む進む。もし誰か人がいたとしたら、読書している最中に話しかけてきて邪魔してくるやつもいるのだ。
まあ、邪魔してくる友達は、いないんだけどな。
さて、それじゃあいつもの日課。読書に移ろうかと思った時
「おはよう、新汰」
と、とても爽やかボイスが後ろから聞こえた。
声の方に振り向いてみると、そこにいたのは俺の数少ない友達、神田秋人だった。
「随分眠そうだね?」
「まあ、朝は眠いもんだろ」
こいつの説明は正直面倒くさいので簡単に済ませよう。
もし、こいつを詳しく語ろうとしたら、とてもとても自分が虚しくなってくるからな。
では紹介。
イケメン。モテる。頭いい。以上。
「もうちょい何かあると思うんだけど...」
この野郎、イケメンで頭もいい上に他人の心読む能力まであんのか。おお神様、なんでこいつにこんなに授け、俺には何も授けてくださらないのでしょうか。
そもそも、貴方はいるのですか?
おお、神よ。私めに慈悲を...
「あ、机の中にラブレター入ってる」
確信した。神はいない。少なくとも俺にはな。
「またかよ、お前今年入って何枚目だ?」
「んー、分かんないや」
「死ね」
「ちょっと酷くない?」
「うるせー、俺の気持ちなんかイケメンには分かんねえよ。つーか分からせてたまるか」
とは言うものの、俺は別に人気者になりたい訳では無い。
演劇をやってるのも、ただお芝居が好きなだけ。
1人の時が多いほどお芝居のイメトレもできるし、読書もできる。うむ。素晴らしい。
「あ、お兄ちゃんいたいた。おーい、お弁当忘れてたよー」
俺と秋人が駄弁っていると、後ろのドアから声が聞こえた。
「え?ああ、サンキュー咲。」
「全く、ちゃんといつも確認しろって言ってるじゃん」
この娘は神田咲。秋人の実の妹で、やはり兄と妹。兄が美形だと、妹も美形である。
赤みがかった腰まであるポニーテールをひらひらと揺らしながら、咲はこっちに向かってきた。
「おはよう、新汰くん」
咲は俺より年下だ。ではなぜ、先輩ではなく君付けで呼ぶのか。
なぜならこの兄妹とは小学校からの付き合いなので、今更「先輩」と畏まる必要が無いのだ。
「おはよう、咲ちゃん。毎度毎度偉いよな。ちゃんと兄貴にお弁当届けてやってさ」
「ほんとだよ。少しは言ってやってよ」
「面倒い」
「でた、新汰くんの面倒い。それもどうかと思うけどなー私 」
「まあまあいいんだよ」
「ふーん、まいっか。それじゃあまた部活でね」
「はいよ」
「ありがとな」
そう、こいつらは俺と同じ演劇部である。
しかし、昨日の稽古には居なかった。それは何故か。
こいつらは裏方なのである。
秋人が音響、照明を担当。
咲が大道具、小道具、そして衣装を担当。
2人とも能力はずば抜けていて、演劇部全員2人を信頼しきっている。
役者も裏方を手伝うことはあるが、それもあまりない。
まあ簡単にいうと、こいつらは天才なんだよ。
それぞれ2つ以上役職があるのに、それを苦の表情を見せず1人でどうにかしてしまう。もはやバケモンだ。
もっとも咲においては、去年までは中学生だったがその時からちょこちょこ秋人の妹ということでお手伝いに呼ばれていて、そこで実力を買われている。
俺から言わせりゃ、2人の才能はほんとに羨ましい。
さて、時間は流れ放課後。
部活の時間だ。
今日は裏方含む台本の内容理解の共有会議のため、秋人と咲も部活に参加する。
「おはようございまーす」
「あ、先輩、遅いですよー」
俺が部室に入ると、部長を囲んで、進藤、雛、咲、秋人が、それぞれその順番で椅子に座っていた。
「仕方ねえだろ、ちょっと腹下してトイレ行ってたんだよ」
いつも通りに絡んできた雛を華麗に処理し、俺は台本を持って空いてる椅子に座った。
「よいしょっと」
「んしょっと」
なぜだか雛が隣に座ってきた。しかもさっきまで座ってた椅子には既に秋人が座っている。
こいつら、気配殺す能力まで持ってんの?最強じゃねえか。
「よし、それじゃあ全員揃ったし始めるか。
じゃあ最初っからだな。えーっと、ここは俺はだな...」
「...というような感じだ。みんなはどうだ?」
「俺も部長とほとんど同じです」
「俺も」
「私も」
「私もです」
「大丈夫だよ」
「よし。ならこの理解のまま進めていくか」
なぜ今日になってこの共有会議を開いたのか。それは、昨日から稽古は始めていたが、裏方の秋人と咲がいなかったためだ。
演劇というのは、どうしても観客は「役者」に目が行くことが多い。しかし実際は、それを支える裏方の仕事も役者と同じくらいある。
そのため、これを目で聞いている諸君。
もし君たちが演劇を観る機会があったならば、裏方の存在のことも忘れないでほしい。
「先輩?どうしたんですか?まるで、自分の考えを他人に喋っている時のような顔してましたけど」
「何お前、おれの心読めんの?この部活俺以外能力者なの?」
「何言ってるんですか先輩、そんなことより、ほら、今から昨日の続きするんですから、こっち来てください」
「?ああ」
昨日の続きと言ったら演技プランを考える事だが、なぜ雛と一緒に行かなければならないのか。
俺は疑問に思った。
「はい、ここ座ってください」
「?ああ」
とりあえず、言われた通り座る。
「んー、もうちょっと膝広げてもらってもいいですか?」
「?ああ」
とりあえず、言われた通り広げる。
「よし、それじゃあ失礼しますっ」
「!?ああ!?」
雛は俺にもたれ掛かるように、足の内側にすっぽりと入って座ってきた。
「ちょっ、おい、いきなりなにをっ!」
「いいじゃないですか。私、ここが1番落ち着くんです」
満面の笑みでそんな事を言う雛。
辞めてくれ。女性経験ない童貞の健全な男子高校生にこの仕打ちは明らかにやばすぎる。
どんなに気にしないようにしても、雛の確かな柔らかい感触と、香水などじゃない甘い香りが、俺には刺激が強すぎる。
しかし、俺はお芝居を愛する男だ。
こんなことで、その日々を邪魔されてなるものかっ!
見てろよ、俺は、俺の仕事をしっかり成し遂げてみせる!
うぉぉぉおおおお!
耐えろ!俺の理性ぃぃ!
結局、何も考えられませんでした。
〜雛と新汰がイチャイチャしてる時の光莉〜
「ちょっ、やめろ雛っ!」
「えー、別にいいじゃないですかー」
またやってるよあの2人。
ほんといつも懲りないなあ。
イチャイチャを見せつけられる身にもなれっての。
でも...羨ましいなあ。
雛ちゃんは、ちゃんと自分の気持ちに正直で、しっかり行動を起こして。
しかもちゃんと結果を出してる。
...やっぱり...私もあれぐらい...積極的にいったらいいのかな...
そう思いながら、私は 彼 に目を向ける。
彼 の顔は真っ赤だ。なんだか、満更でもなさそうな?
このままだと勝ち目はないのは分かってる。
でも、私は私のやり方で 彼 と...その...そういう関係になりたい。
も、もちろんっ、エッチな関係とかじゃなくてね?!
.....私は...鷹宮さん。その場所を譲ってもらう気はない。
奪うつもりだから。
厳しいライバルなのは分かってる。だからこそ諦めたくない。絶対に、負けたくない。
私は決意を再確認し、台本の確認作業に戻った。
甘々な後輩って、どうですか? えす @sf5221
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