後編

 居酒屋の個室席に僕達は移った。国枝は上座に生中とお通しを置く。

 そこに死神様がいるらしい。

「さて、健康診断の結果では、俺の身体はまったく問題ないらしい。つまり、俺が三ヶ月後に死ぬなんて事は死神にしか分からない」

「そうか。それで……」

「今なら、生命保険に入れる。女房子供に保険金を残してやりたいんだ」

「入ればいいじゃないか」

「金がないんだよ。貸してくれ」

 そういう話だったか……

「なんで僕が……」

「おまえ、最近羽振りが良いそうだな」

「そんな事はないぞ。僕は貧乏だ」

「貧乏な奴が、ポルシェで同窓会に来るかよ」

 ちっ!! もっと、質素に振る舞うんだった。

「確かに金はある。だが、返す当てのない奴に貸す金はない」

「返す当てならある。三ヶ月後に俺は死ぬぞ。そしたら保険金で返せる」

「死ななかったら、どうする!?」

「大丈夫だ」国枝が空席を指さす。「死神が保証している。なんなら、本人に聞いてくれ」

 無理だあ!! と危うく叫び掛けた。

 いや、襖で仕切られているだけだが、ここは個室。

 ここでなら、本当の事を言っても良いのではないだろうか?

 こいつの目的は要するに金だ。

 口止め料として払ってしまえば……

 この状況で、死神が見える演技をするなんて無理だ。


「国枝。もうよそうぜ。 死神なんているわけないだろ」

「いるじゃないか。ここに。見えないのか?」

「ああ、見えないよ。見えるなんて嘘さ。みんなを騙していたんだよ。おまえも、本当は死神なんて見えていないんだろ」

「霊が見えるのが嘘だって? 霊がおまえにとり憑いて、色々喋っていたのを見た事があるが……」

「演技だよ。演技。霊媒師のふりをしていたんだよ」

「あれはすべて、演技だったのか?」

「そうなんだ。みんなには黙っていてくれ。口止め料なら払う」

「いや。もう無理だ。みんなに聞かれてしまった」

「え? それって……」

 不意に、国枝は襖の方を向いて言った。

「だ、そうです。みなさん」

 襖が突然開く。そこにいた怒れる面々に、僕は見覚えがあった。宗教団体を告訴している被害者団体御一行様である。

「そうそう、言い忘れたが」

 国枝が僕に名刺を差し出した。

 名刺には『弁護士 国枝 正義』と書いてあった。

「今は俺、この人達の弁護やってるんだ」


          了

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そこに死神様がいるらしい 津嶋朋靖 @matsunokiyama827

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