筋肉信仰

真偽ゆらり

君は素質がある。君も筋トレを始めてみないかい?

「筋肉を崇めよう」


 教義は唯それ一つ。

 教祖も開祖も存在しない。

 それなのに常に人類の傍らにある。


「まずは腕立てや腹筋から始めてみようか」


 祈りも御布施も不要。

 祈る暇があるなら筋トレを、御布施に使う金があるなら器具や食材を。


「大丈夫、最初からできる人なんていないさ」


 高説を説く必要もない。

 筋肉は常に共にあるのだから。


「前よりも少しだけど数をこなせてるよ。よく頑張ったね」


 大切なのは筋肉を、筋肉の行いを崇めること。

 さすれば筋肉は答えてくれる。


「筋肉痛は成長の兆しだよ。今は無理をしないで休息と栄養を取るんだ」


 時にある痛みは筋肉からの要求であり、適切に応えるべし。

 応ずれば福音がもたらされるであろう。


「少し筋肉が付いてきたね。前よりも頼もしく見えるよ」


 筋肉は裏切らない。

 だが、疎かにせし者はその限りに非ず。


「足がつった? ストレッチや水分補給に気を配らないとだめだよ。あと、野菜もしっかり食べること」


 筋肉は……筋肉が……筋肉で……筋肉……筋に………く?


「どうしたんだい? さぁ、筋トレを続けようよ」


 そうだ筋トレを続けよ……なぜ?


「何を悩んでいるんだい? 自信なんて筋トレを続けていれば後からついてくるさ」


 筋肉を……崇め……よ。


「もう少し、負荷を上げてみようか」


 …………筋肉。


「まだいける! もう少し、もう少しだけ追い込んでみようか」


 筋肉! 筋肉! 筋肉!


「そうだ! 限界のギリギリまで」


 オーoh……。筋肉、イズ……ッパワーPOWER!!


「いや、筋肉はマッスルだよ?」


 筋肉を崇めよ……う。


「うんうん。君もかなり仕上がって来たね」


 筋肉は素晴らしい。


「もう一息かな?」


 筋肉は最高だ……である。


「はい、プロテインだよ。運動後の今と寝る少し前に摂取すること」


 筋肉にはプロテインだね――プロテインを捧げげげげ……このプロテイン、美味しい。


「仕上がってるよ」


 筋肉を崇めよう。

 まずは腕立てや腹筋から始めてみようか。

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