筋肉
にーりあ
筋肉タイムスリップ
私はニッチな筋肉系AV女優である。
メンタルがヘラって自殺を図った。
「もしタイムスリップできたら、どこで何をする?」
夢の中に出てきた死神の問いである。
私は夢を自覚し今までずっと引きずっていた問題の処理を願った。
「バイトを辞めない」
夢の世界が切り替わる。
「来ないって言ったのに来たんですね」
店長に頭を下げ私はシューにクリームを詰める。
私の仕事はうんざり単純作業、シューにクリームを詰めるだけ。筋肉を使う余地はない。
「今日もシューにクリームを詰めます」
「今日はパンの成型してみる?」
「え?」
店長は仕方がないバイトを見るあきれ顔で「はよう」と言い手招き。
筋肉が戦場に喜ぶ。
私はパン作りを学んだ。
私の知る歴史ではパン屋さんとはAV女優業を誤魔化す単語だ。だがこの時から、私は本当の意味でパン屋さんをすることとなった。
目が覚めると朝が来ていた。
病室には医師の姿がある。私の手を握るその姿に私は兄を重ね見た。
「看護師という、道もあったか」
胸のつかえがとれた気がして、私は今度こそなりたい自分になると決めた。
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死のうと思っていた。
今年の正月。私は入院した。末期がんである。
「もしタイムスリップできたら、どこで何をする?」
夢の中に出てきた死神の問い。
私は夢を自覚し今までずっと引きずっていた問題の処理を願った。
「登山に向かった妹についていく」
夢の世界が切り替わる。
「来ないって言ったのにやっぱ来たー!」
妹と一緒に私は山に登る。
山頂ではしゃぐ妹をぼんやり眺め、やがて下山。
私は自分の筋肉の囁きに従い、妹の荷物を持ってやる。
「自分で持つけど?」
「今こそ見せてやろう。ER(EMERGENCY ROOM)で鍛えた筋肉の性能とやらを」
妹は仕方がない兄貴を見るあきれ顔で「あっそう」と言い山を下りる。
私は妹と共に家へ帰りついた。
私の知る歴史では、この日妹は家に帰ってこない。滑落死するからだ。
目が覚めると朝が来ていた。
病室には看護師の姿がある。私の手を握るその姿に私は妹を重ね見た。
「あぁ、疲れたなぁ」
筋肉の呟きを代弁した私は、今度こそ醒める事のない眠りについた。
筋肉 にーりあ @UnfoldVillageEnterprise
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