D.B.ブッコロー ~R.B.ブッコローのDiary~

翠佳

R.B.ブッコローの黄昏

「ブッコローさんいらっしゃいました~」


 いつもの皆に挨拶をしながら撮影までの控え室へ向かう。机に置いてある今日の企画書を確認する。最近流行ってるとは聞いていたがこんなにもあるのか。少し驚きつつ資料の束に軽く目を通す。

 それより今日はいつもに増して空が朱い気がする。夕陽をぼぅと眺めていると扉が開いた。


「ブッコローさん、お待たせしました~」


ザキさんだ。


「あれ?まだ企画書とか紙で貰ってるんですか?」


いきなり何を、と思ったがザキさんの手にあるものを見て驚いた。


「なんでタブレットなんか持ってんすか、しかもPDFで資料開いてるし」


今度はザキさんが驚く。


「寝ぼけてるんですか?ずっと紙なんて時代遅れだって私言ってるじゃないですか。文房具が鉛筆とかを指す時代は終わりました。今は電子機器で全て事足りますから」


文房具王になり損ねたとはいえ、あれだけの文房具マニアのザキさんがこんなことを言うなんて......


「それより撮影です、行きましょう」


とりあえずザキさんの後ろに飛んでついていく。

部屋を出て危うく落ちかける。なんだこの棚にびっしりと並べられている電化製品は。さっき来た時とはまるで別世界のような。


「いつから有隣堂は電気屋になったんすか!?」


そういうドッキリだと確信し、ひとまずそれに乗ってみる。


「創業当時からですけど?今日は一段とおかしいですよ、目覚ましにドライたくあんでも食べます?」


一段と、という言葉が気になるがそれよりドライたくあんは勘弁願いたい。


「本を売りなさいよ、本を。もうドッキリばれちゃってますから本編行きましょ」


私を除く、その場にいる全員が首を傾げる。


「今日は撮影やめときますか?なんかマジでブッコローさん体調やばそうだし」


Pのマジトーンが聞こえてくる。本当にドッキリでもなく、私がおかしいのか?


「いや、ごめんごめん。ちょっと皆どういう反応するかと思ってさ」


なぜか咄嗟にこちらがドッキリを仕掛けたことにしてしまった。

その後は順調に撮影が進む。私の困惑と、企画が最新デバイス紹介になっていることを除けば。


「これね、操作性は勿論なんですけど......」


取り扱っているものやザキさんの思想以外は普段通りの撮影であることが分かると、より一層混乱してくる。


「次のこれは耐衝撃性に特化してまして。ちょっと重たいですけど投げても大丈夫なんですよ。......ほら、こんな感じに」


あまりに周りが気になりすぎて反応が遅れた。宙に舞うデバイスを視認するとそれは既に眼前にあった。




「......ローさん............ブッコローさん!!」


目を開けるとザキさんが呼んでいた。


「ザキさんノーコン過ぎますよ。ほんとに死んだと思いましたからね」


「寝ぼけてます?」


さっき聞いたようなセリフだ。まさか、と思い周りを見渡す。


「......控え室?」


「そうですね、眠たいならもう少し待ちましょうか?」


大丈夫です、とだけ返して撮影場所に向かう。いつもの有隣堂だ。


「それじゃ始めまーす」


いつものように撮影が始まる。OPトークにさっきのことを話そうか。


「さっき、ザキさんが投げたデバイスが私のところに飛んできて......」


「なんですかそれ、変な夢見てたんですね」


夢?

そうか、そういえば控え室に戻ってきていたし、さっき大声で私のことを呼んでいたのは寝ていたのを起こしたからか。


「爆睡してたから何回も大声で呼びましたよ、久々にあんな大声出しました」


ザキさんが笑いながらさっきの情景を話している。そうか夢だったのかとようやく自分の中で結論が出る。


「そうそう、夢の中の有隣堂は電気屋さんでさ......」


あの驚きと困惑に溢れた世界のことを話す。


「黄昏時は逢魔が時と言ったりしますし、魔物の世界じゃなくてパラレルワールドにでも繋がってたんじゃないですか?」


パラレルワールドか、と妙に納得していると、Pからタイトルコールの合図が入る。

企画書を見直してタイトルを読み上げる。




「今回はこちら、異世界転生の世界~!」

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D.B.ブッコロー ~R.B.ブッコローのDiary~ 翠佳 @suikei

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