やかましいヒラメ筋
ハルカ
筋肉の呼び声
大学の先輩からトレッキングに誘われ軽い気持ちで参加してみれば、初心者にはきつい登山に付き合わされ、翌日には両足が深刻な筋肉痛になった。
そればかりか妙な声が聞こえるようになったのだ。
『痛いよぅ……痛くて死んじゃう。ねぇ誰か心配して……』
『疼くぞ……切り裂くような痛みが総身を駆け巡るッ』
なんだこれは。ふくらはぎから声がする。
しかも、なぜか左はメンヘラ、右は中二病っぽい。
そんな状況でも大学を休むわけにはいかない。
講義中は静かにやり過ごし、空き時間に文芸サークルの部屋へ飛び込んだ。
こうなったのはあの登山のせいだ。先輩に苦情を訴えてやる。
「先輩っ!」
「やあ。山の空気は極上の味わいだったね。どうだい、また来週にでも」
「庶民なので大学の空気で結構です!」
「しかし作家は経験したことしか書けないらしいじゃないか。なら山に行かねば山のことは書けまい?」
「じゃあ異世界転生しなきゃ異世界ものを書けないですね」
「なるほど一理ある。さっそく異世界転生してこようじゃないか。やはりトラックにひかれるのが原点にして頂点かな」
アホだこの人。
しかもアホのくせに行動力だけはあるから厄介だ。
「ダメです!」
必死で止めようと足を踏み出した瞬間、ふくらはぎから悲鳴が上がった。
『痛いよぅ! どうして私ばかりこんな目に遭うの……』
『切り裂くような痛みでさえ我は受け入れてみせようぞ……って、痛ぁ、これはさすがに痛い!』
ええい、やかましいヒラメ筋どもが!
こうなったら奥の手だ!
「先輩、聞いてください! 実は私、筋肉の声が聞こえるようになったんです!」
そう叫ぶと、先輩の動きがピタリと止まった。
「なんだいその面白そうな話は? 詳しく聞かせたまえ!」
こうして私は、嘘のような本当の話をする羽目になった。
先輩はリアリティがあるって喜んでたけど、当たり前だ。だってこれは私が実際に経験したことなんだから。
やかましいヒラメ筋 ハルカ @haruka_s
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