track.12 ドリームズ・カム・トゥルー
自分に、みんなを説得するだけの話術はない。
何かを伝える方法は音楽しか思いつかない。
ケースを開けて中からキーボードを取り出し、スタンドの上に乗せて電源を入れた。
そして、キル姐さんが巻き付けた鎖を解き放つ。
私は深呼吸してから鍵盤を一つずつ鳴らし、自分の声量だけで歌う。
《足を止めてよ。
立ち続ける私に振り向いて。
届けたい歌があるから。
語りたい夢があるから。
夢を語るなんて痛々しい?
私はそうは思わない。
夢を嫌いになれない私たちは素晴らしい。
夢に向かって歩ける私たちは誇らしい。
さぁ、虹色のスプレーで夢を描こう自分の願い。
壁に描いた大きな世界。
広がり続ける輝く未来。
ほら、これで同じ夢が見られるよ。
みんなで描き足して行こう自由な夢》
――――お願い、行かないで――――。
私の思いと裏腹に、去ろうとするメンバーは人混みに紛れて姿を消した。
もう、ここまでだと諦めかけた瞬間、いつのまにか私の側に戻って来たキル姐さんが、照れくさそうにケースからギターを取り出して、ベルトを首からかけて弦を鳴らし始める。
アンプに繋いでないエレキギターは小さく、変調を持たない音を鳴らすだけ。
それでも、キル姐は私が鍵盤で鳴らすリズムに合わせ、弦を振動させる。
それだけで何となく音楽が出来上がっていく。
ハゼロとビッチもバツが悪そうに戻って来て、演奏に参加。
スティックを取り出したハゼロは、キャリーバッグの上や横を叩いて、ドラムとはいかないまでも、ゆっくりとリズムを刻む。
ビッチは取り出したベースを弾き始めると、胸に抱えた赤ちゃんも母親に合わせて、ベースの弦を嬉しそうに鳴らす。
さっきまでの険悪な雰囲気は消え去り、メンバーは笑顔で楽器を弾いていた。
音楽が三人の絆を繋ぎ止めた。
一つ一つの楽器が奏でる音は、弱々しくて何を語ろうとしているか、わからない。
でも、四人で演奏すれば一つの音楽になって、夢を語り始める。
いつの間にか、駅から家路を急ぐ人たちが、足を止めて私たち四人の演奏に耳を傾けている。
私が一人の時は誰も足を止めなかった。
でも、今はこのリドレスの為に時間を止めている。
このバンドの夢や目標は、やっぱり四人でないと叶えられない。
こうしてリドレスは、夢の続きを歩き出した――――…………。
おわり
リドレス・ヘッドバンギング にのい・しち @ninoi7
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