俺の筋肉は、あの人のため!

温故知新

俺の筋肉は、あの人のため!

「8! 9! 10! はい、休憩!」

「はぁ、はぁ……」



 仕事帰りのジムでいつものメニューをこなしていた俺に、眩しい笑顔を浮かべたインストラクターのお姉さんが水の入ったボトルを差し出してくれた。



「お疲れ様です! 佐藤さん、良い感じで筋肉が仕上がってきているんじゃないですか?」

「ほっ、本当ですか!?」



 地面でへばっていた俺は、お姉さんの言葉にガバッと起き上がった。そんな俺に、お兄さんは嬉しそうに頷いた。



「はい! ここを訪れた時に比べれば、見違えるくらいに体格が変化してきましたよ!」

「アハハ、ありがとうございます」



 まぁ、ここに来た時は『いかにも運動不足です』って感じのひょろ長い体格だったけど……そういえば、ここ最近になってジムに通う前まで着ていた服が全部入らなくなって、フリマアプリで売ったな。



「そうですよ! これも、佐藤さんが日頃からちゃんと食事管理と適度な運動を続けているからです!」

「まぁ、ここに通い始めてから食事と運動に気をつけるようになりましたね」

「そうですよね! やっぱり、努力は実を結ぶんです!」



 自分のことのように喜ぶお姉さんに対し、俺は少しだけ後ろめたい気持ちになった。


 確かに、俺がここまで頑張れたのは日頃の努力があったのかもしれない。だが、一番は……



『佐藤さん、随分と逞しくなりましたね!』

『そっ、そうですか?』

『はい!! 特に、ここの大胸筋の育ち具合が……』



 社内で『筋肉好き』と有名な御剣さんの目に留まってくれたから。


 彼女とは同期で、彼女の凛とした姿に俺は一目惚れした。

 そして、彼女が無類の筋肉好きと知ってから、俺は彼女の目に留まろうとこのジムに通い始めたのだ。



「はい! 休憩終わりです! 佐藤さん、次のメニューに行きますよ!」

「はい! よろしくお願いします!」



 お姉さんの威勢のいい掛け声で、今日も俺は自分の筋肉を苛め抜く。憧れの彼女との距離を縮めるために!

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