内臓を揺する

@2321umoyukaku_2319

第1話

 おまえは全身の筋肉を鍛えていると、いつも言う。全身の、ありとあらゆる筋肉を練り上げ、鍛え上げていると、自慢げに。

 本当にそうか? トレーニングルームで、おまえが伸び縮みさせている四肢や体幹の筋肉が、筋肉のすべてなのか?

 否、断じて否。

 違うのだ、おまえが鍛えているものは筋肉の一部でしかない。

 自らの意志で動かす筋肉つまり骨格筋だけを筋肉のすべてだと捉えるのは誤りなのだ。

 知らないのなら教えてやろう。

 筋肉は大きく二つに分類される。

 自分の意志で動かせる随意筋ずいいきんと、自分で動かしたくても動かせない不随意筋ふずいいきんだ。

 この随意筋の代表格が骨格という人体の骨組みに付着している骨格筋つまり、おまえらが大好きな筋肉だ。筋トレで鍛えている、一般的な筋肉なのだ。

 不随意筋は二つに分けられる。心臓を収縮させる心筋しんきんと、心臓以外の内臓や血管を収縮させる平滑筋へいかつきんだ。これらの筋肉は自分の意志で伸び縮みさせることが不可能だ。おまえが「動け」と命じなくても心臓は動き「止まらないでくれ」と哀願しても心臓は動きを止める。平滑筋も同じことだ。おまえの意志とは無関係に動くものだから消化管は好き勝手に音を立てる。腹がグーグー鳴るのも、屁が止まらないのも、おまえが平滑筋を自由自在に操れないためだ。

 自らの一部である不随意筋を自分で操れない、そんなおまえが筋トレの素晴らしさを偉そうに語っているとしたら、それに耳を傾けている心筋や平滑筋たちは大笑いしていることだろう。その愚かしさ、傲慢さを笑い、収縮するのだ。おまえなんかと関係なしに!

 骨格筋だけでなく、不随意筋である心筋や平滑筋を思いのままコントロールしたいと思うのならば、それなりの鍛錬が必要だ。動かせない筋肉を動かすための神経を伸ばすことが、その第一歩だ。新しく神経を生やすのだ。脳から伸ばすのだ、神経を。イメージしろ。伸びゆく神経を。そして内臓を揺すれ。

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