【KAC】筋肉姫

斜偲泳(ななしの えい)

第1話

 昔々ある所に力こそパワーというヘンテコな国がありました。

 国一番の力持ちである女王様は日課の筋トレを終えると今日も魔法の鏡に尋ねます。


「鏡よ鏡。この国で一番マッチョなのは誰だい?」

「女王様、それはもちろんあなたです。あなたこそがこの国で一番の力持ちです」

「そうだろうそうだろう。わらわ程の筋肉自慢はこの国にはいまい。おーっほっほっほ! グェップ!」


 自惚れ屋の女王様はいつも通りの答えに満足し、魔法の鏡の前でサイドチェストを決めながらジョッキいっぱいのプロテインを飲み干します。


 けれどある日の事――


「鏡よ鏡。この国で一番マッチョなのは誰だい?」

「女王様、以前はあなたがこの国で一番の力持ちでした。ですが今は、王女の筋肉姫がこの国の一番です」

「ファアアアアアッッッック!」


 思いもよらぬ返答にプロテインを噴き出すと、カッとなった女王は魔法の鏡(200キロ)を担ぎ上げお城の窓から放り投げてしまいました。


 筋肉姫とは病弱で早くに亡くなった前王妃の娘で、女王は以前から気にくわないと思っていました。


 えぇい生意気な筋肉姫! あぁ憎らしい恨めしい!


 己の筋肉に絶大な自信を持っていた女王はプライドを傷つけられ、筋肉姫を亡き者とする事に決めました。


 そこで女王は国一番のパーソナルトレーナーを呼び出して言いました。


「トレーニングと偽ってあの子を森の深くに連れ出して殺してしまいなさい!」

「いくら女王様の命令とは言え、そのような恐ろしい事は出来ません……」

「やらなければパーソナルトレーナーの資格を取り消します!」


 国一番のパーソナルトレーナーとは言え資格がなければ仕事は出来ません。

 脅しに屈し、パーソナルトレーナーは幼い筋肉姫を森の深くへと連れ出します。


「女王様専属の国一番のパーソナルトレーナーさんから指導を受けられるなんて、私はなんて幸せなんでしょう! 今までお義母様には嫌われているとばかり思っていたけれど、全部私の勘違いだったのね!」


 何も知らない筋肉姫は両手に百キロのダンベルを持って無邪気に森を駆け回ります。


 その力強さたるや!


 スカートの下から覗く男鹿のような腓骨筋、スポーツドレスから伸びる太くしなやかな腕橈骨筋を見ているだけでも筋肉姫の類まれなる才能が伺えます。


「だめだ! この子を殺すなんて自分にはとても出来ない!」


 国一番のパーソナルトレーナーは涙を流しながら地面に膝を着きました。


「どうしたんですか? お腹が痛いのなら、私がお城まで担いで行きますよ?」


 心優しい筋肉姫に、国一番のパーソナルトレーナーは全てを話す事に決めました。


「――分かりました。それでは私はこの森に残ります。ですからパーソナルトレーナーさん。お義母様には私は熊に襲われて死んだと伝えてください」

「心優しい筋肉姫! ですが女王は熊如きにあなた様を殺せるとは思わないでしょう……」


 言われてみればその通りです。

 それで二人は話し合い、筋肉姫は吊り橋から突き落とされた事になりました。


「心優しい筋肉姫、どうかお達者で!」

「大丈夫。私には本当のお母様が残してくれたこの筋肉がありますから。だからパーソナルトレーナーさん。私の事は心配しないで」


 筋肉姫は健気に笑うと、モスト・マスキュラーのポーズで国一番のパーソナルトレーナーを見送りました。


 けれど筋肉姫はまだ幼く、国一番のパーソナルトレーナーと別れると途端に寂しくなってしまいました。


「はぁ、これからいったいどうしよう……」


 こんな森の奥深くでは筋肉を維持する為に必要なたんぱく質を得られるかも分かりません。


 全身無駄のない筋肉で代謝の良い筋肉姫です。

 しばらくすると猛烈にお腹が空いてきました。

 どこかに良質なたんぱく質はないかしら。


 両手に持ったダンベルを交互に振りながら森の中を彷徨っていると、やがて一軒の小さな小屋を見つけました。


「誰かいませんか?」


 おっかなびっくり入ってみると中は無人です。


「まぁ! 不思議!」


 奇妙な事に小屋の中の家具はどれもこれもおままごとの玩具のように小さな物ばかりでした。

 けれどもどれも作りは良く、本物以上に立派です。

 また、小屋の一角には美味しそうなソーセージやハムが吊るされ、樽の中にはプロテインではありませんが澄んだ飲み水もあるようでした。


「……ゴクリ」


 腹ペコの筋肉姫は思わず唾を飲みました。


 だめよだめだめ! 知らない人のお家の食べ物を勝手に食べるなんて!

 せめて家主が帰って来てから相談しよう!


 そう思って我慢していた筋肉姫でしたが、待てど暮らせど不思議な小屋の住人が戻って来る事はなく、辛抱しきれなくなった筋肉姫は一口だけと天井にぶら下がったソーセージを齧ってしまいました。


「まぁ美味しい! こんなに美味しいソーセージ食べたことがないわ!」


 女王の意地悪でろくな物を食べさせてもらえなかった筋肉姫は感動しました。


 そしてついついもう一つ、あと一つだけと手を伸ばし、気が付くと家中の食べ物を食べつくしてしまいました。


「いけない! 私ったらなんて事を!」


 こうなったら家主にちゃんと謝って償いをしないと!


 そう思って家主を待つ筋肉姫ですが、いつまで経っても帰って来る気配はありません。

 仕方なく筋トレをして待つ筋肉姫でしたが。


「ふぁ~……。眠くなってきちゃった」


 眠い目を擦ると、そこには小さなベッドが七つ並んでいます。

 人様のベッドで寝るのはどうかと思いつつ、お姫様の筋肉姫に床で寝るという発想はありませんでした。


「ちょっとだけ……ちょっと、らけぇ……」


 眠気で頭がほわほわほして、筋肉姫は倒れ込むようにして横並びになった七つのベッドで眠ってしまいました。


 それから暫くして戻ってきたのはこの小屋に住む七人の小人達です。


「なんだこりゃ。ワシらの家に人の子が寝とるぞ」

「本当に人の子か? オーガの子じゃないのか?」

「確かに人の子にしてはマッチョだが、肌の色は人だでな」

「なんてこった! 食い物が一つも残っとらん!」

「なんだって!」

「楽しみにしてたのによぉ!」

「がーん」


 ワイワイガヤガヤ。

 その騒ぎに、ようやく筋肉姫も目を覚まします。


「まぁ! なんて小さな人達でしょう!」


 驚きながらも筋肉姫は自分のしてしまった事を謝罪して、こんな事になってしまった事情を話します。


「……ふぅむ。それは可哀想だと思うがのう」

「わしらには関係ない話だでな」

「「「「そーだそーだ!」」」」


 同情しつつも小人達の腹の虫は収まりません。


「ごめんなさい。許してください。私に出来る事ならなんでもしますから!」

「ほう。今なんでもすると言ったかね?」


 ずる賢い小人の目が怪しく光ります。


「ならお姫さん。あんたの身体で払って貰おうか」


 その言葉に、他の小人達も下卑た笑みを浮かべます。


「身体で払う?」


 無垢な筋肉姫が首を傾げると、小人達は王女を囲んで言いました。


「「「「「「「ワシらの代わりに鉱山で金を掘って貰おうか!」」」」」」」

「そんな事なら喜んで!」


 そういうわけで翌日から、筋肉姫は小人達に代わってツルハシを振る事になりました。


 小人達は鉱脈を探し当てる嗅覚に優れ、細工の腕も一品でしたが、身体が小さいせいで力仕事には向いていませんでした。


 一方の筋肉姫はこの国一番の力持ちです。


 鉱山での採掘や金属の精錬に使う薪作りなど、筋肉姫にとっては大好きなトレーニングと大差ありません。


 彼女が力仕事を請け負う事で小人達は鉱山経営に集中出来き、稼ぎは何十倍にも増えました。


 まさにWIN―WINの関係です。


 可愛くて気の良い力持ちの筋肉姫ですから、すぐに小人達にも気に入られ、我が子のように大事にされました。


「筋肉姫や。新作のアクセサリーが出来た。試作品をお前にやろう」

「そんな! 美味しいご飯に寝床まで用意して貰ってその上アクセサリーだなんて、申し訳ありません!」

「そうだぞ赤鼻。筋肉姫にはアクセサリーよりこっちだでな。ほら、プラチナで作ったダンベルだ。こいつは重いぞぉ」

「わぁ! 素敵! こんなに小さいのになんて重いんでしょう!」

「わっはっは! 全く、面白い娘だのう!」


 筋肉姫と七人の小人達が幸せな毎日を送っている一方で、お城では新しい魔法の鏡が届いていました。


「この時をどれ程待っていた事か! 鏡よ鏡。この国で一番マッチョなのは誰だい?」


 届いたばかりの魔法の鏡に向けて、意地悪な女王はアドミナブル・アンド・サイのポーズで尋ねます。


「もちろんそれは筋肉姫です。彼女の筋肉はこの国を超え、世界で一番素晴らしい!」

「ファアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッック!」


 ブチ切れた女王は届いたばかりの新しい魔法の鏡(300キロ)を担ぎ上げお城の窓から放り投げてしまいました。


「なぜ筋肉姫がまだ生きておるのだ!?」


 全身の筋肉に青筋を浮かべて怒り狂うと、女王は部屋中の家具を叩き壊しました。


 忌々しい筋肉姫め! きっとあの筋肉のせいで橋から落ちても無事だったに違いない!


 女王の脳筋が幸いして、国一番のパーソナルトレーナーが咎められる事はありませんでした。


「こうなったらわらわが自ら手を下してやる!」


 そういうわけで女王は私兵を使い密かに情報を集めました。


 それによるとどうやら最近件の森に住む小人達との間で金の流通量が不自然に増加しているようです。


 ずる賢い小人達の事ですから、力自慢の筋肉姫を取り込んで金を掘らせているに違いありません。


 そうと決まれば早速女王はプロテイン売りに変装し、小人達の元を尋ねました。


「プロテイン? そんな物は必要ないわい」

「いや待て赤鼻。そう言えば筋肉――いや、ワシらの娘がそんな物を欲しがっておったはずじゃ」

「そうじゃそうじゃ。良質なプロテインが飲みたいと言っておった!」


 今や筋肉姫を実の娘以上に大事に思う小人達です。

 良かれと思い、筋肉姫の為に樽いっぱいの毒入りプロテインを買ってしまいました。

 奇しくもその日は筋肉姫の誕生日です。


「「「「「「「「ハッピーバースデー筋肉姫!」」」」」」」

「まぁ! おじ様達! なんて嬉しいんでしょう!」


 大量の金鉱石を背負って帰ってきた筋肉姫はサプライズのお祝いに大喜びです。


「ほら筋肉姫。お前が前に欲しがっていたプロテインだぞ」

「――ッ!?」


 赤鼻の言葉に筋肉姫は声もなく泣き崩れます。


「わっはっは! いくらプロテインが好きだからって泣く事はないだろう!」


 大袈裟だと笑う小人達に筋肉姫がふるふると首を振ります。


「違うのおじ様。見ず知らずの私をこんなに大事にしてくれるおじ様達の優しさが嬉しかったの……」

「……筋肉姫」


 筋肉姫の清らかな涙に、気づけば小人達も彼女を囲んで涙を流していました。


「見ず知らずなものか! 筋肉姫よ、お前さんは最初からわしらの可愛い娘だよ。そうだろう、みんな!」

「「「「「「そうだそうだ!」」」」」」


 明るい空気を取り戻すと、筋肉姫と七人の小人達はプロテインと葡萄酒で乾杯しました。

 するとどうでしょう。


「うっ……」


 筋肉姫は突然胸を押さえて意識を失ってしまいました。


「どうした筋肉姫!?」

「まさかこのプロテインは……」

「ペロっ……毒入りじゃ!?」

「なんてこった! あのプロテイン売りは女王の刺客だったのか!」

「死ぬな筋肉姫! 死ぬんじゃない!」

「ワシのせいじゃ……。ワシが余計な事を言わなければ……」

「うぉおおおん! あんまりじゃあああ!」

「ええい! 落ち着け! 大事な娘の一大事だ! ワシらが取り乱してどうする!」


 赤鼻の一喝に他の小人達はハッとします。


「そうじゃ! まだ筋肉姫は死んだわけじゃない!」

「何かできる事はないか! なにか!?」


 小人達は必死に知恵を振り絞りましたが、自分達の力で筋肉姫を助ける方法は見つかりませんでした……。






 それから時は過ぎ――






「鏡よ鏡。この国で一番マッチョなのは誰だい?」

「女王様、それはもちろんあなたです。あなたこそがこの国で一番の力持ちです」

「そうだろうそうだろう。筋肉姫亡き今、わらわ程の筋肉自慢はこの国にはいまい。おーっほっほっほ! グェップ!」


 筋肉姫の暗殺に成功した女王は今日も鏡の前でダブルバイセップス・フロントを決めていました。


 邪魔者の筋肉姫を亡き者とした今、女王の次なる標的は前王妃を失って心身を病んだ無能な国王です。


 筋肉姫の暗殺に味を占めた女王は国王も殺してこの国の実権を握ろうと考えたのです。


 国王は筋肉姫が謎の失踪を遂げてから、以前にも増して塞ぎ込むようになっていました。


 この状況を利用して、女王はバレないように食事に少量の毒を盛っていたのです。


 少し早いですが、そろそろトドメを刺してもいい頃合いでしょう。


 仮に怪しまれたとしても、既に女王は国軍の半分を掌握しています。


 いざとなれば力づくで王位を奪う事も可能でしょう。


「今日は偉大なるわらわの生誕祭! 国王にトドメを刺し、この国の王権をわが物とするのだ! そして国中にわらわの黄金像を建て、若くてイケメンでマッチョな王子を侍らせてやる! おーっほっほっほ!」


 かくしてお祭りは始まりました。


 豪勢な山車の上では煽情的な衣装に身を包んだ女王が己の筋肉を誇示するようにポーズを取り、パレードが大通りを進みます。


 人々は女王の肉体美に見惚れて感嘆の声を上げます。


 やがてパレードは街の中央の大広場へとやってきました。


 女王の計画ではここで国王に毒入りプロテインを飲ませ、国民に自分が次なる王権者となる事を印象つけるつもりです。


 既に弱い毒に冒されている国王は隣の椅子にぐったりと腰掛け、生気のない声で祝辞を述べました。


 そして予定通りに毒入りプロテインの入った杯を飲み干します。


(さぁ死ね! 今死ね! すぐに死ね!)


 女王は今か今かとその瞬間を待ちわびますが、国王が倒れる気配はありません。


(……まさか、毒の分量を間違えたか?)


 だとしたらあの薬師を殺してやる。


 などと思っていると、不意に国王は椅子から立ちあがりました。


「さて皆の者。今日はもう一つ、素晴らしい知らせがある」


 それまでとはうって変わった、別人のように快活な声です。


「なっ!? 素晴らしい知らせ? そんな話、わらわは聞いて――」

「黙らぬか! 王の余が喋っているのだぞ!」


 一喝され、女王は口を噤みました。


 これはおかしい。

 なにか、自分のあずかり知らぬ事が起きている。

 それも、とんでもなく不味い事が……。


 困惑する女王の隣で国王は言いました。


「数か月前に謎の失踪を遂げた我が娘、皆の愛した筋肉姫は無事であった!」


 バッ! っと国王が右手を広げます。


 するとどうでしょう。


 隣に並んだ護衛の山車の外装が外れ、金銀宝石で彩られた美しい姿が露になりました。


 山車の上には七人の小人を引き連れた麗しき筋肉姫がラットスプレッド・フロントのポーズで立っています。


 わああああああああああぁぁぁぁぁ!


 今日一番の歓声が城下町に響きました。


「毒殺したはずの筋肉姫がなぜ生きておるのか不思議か?」

「……さて。なんの事やら」


 惚ける女王に国王は筋肉姫と七人の小人達から聞いた話を聞かせます。


 曰く、小人達には筋肉姫に盛られた毒を癒す術はありませんでしたが、筋肉姫と共に稼いだ莫大な財とその過程で得られた人脈がありました。


 それを利用して賢い小人達は森の魔女にコンタクトを取り、魔法の力で筋肉姫に盛られた毒の進行を止めて時間を稼ぎ、その間に金に物を言わせて万能薬を手に入れていたのです。


「そして筋肉姫と共に余の元に現れ、貴様の悪事を全て知らせてくれたと言うわけだ!」


 それによって国王は自身に盛られた毒に気づき、筋肉姫が生きている事を隠す為、偽りの魔法の鏡が用意されたというわけです。


 もし今魔法の鏡にあの問いをぶつけたら?


 答えを聞くまでもなく、筋肉姫を憎らし気に睨みつける女王の嫉妬の表情がそれを物語っていました。


 それでも女王は諦めません。


 彼女にはまだ、密かに掌握した軍隊という力が残っています。


「ふん。黙っていればなんですか! 国王ともあろうお方がそんなペテンにかかるとは愚かしい! 何か月も行方不明だった筋肉姫がずる賢い小人達に助けられて戻って来たなんて、そんな都合の良い話があるはずないでしょう! 全てはわらわを貶め、この国を乗っ取ろうとする他国の謀略に違いありません! そして、そんな事も分からないような愚者にこれ以上この国を任せておく事など出来ませんわ! 国に仇成す愚か者はもはや王にあらず! 将軍! 今すぐこの男をひっ捕らえなさい!」


 女王は命じますが返事はありません。


「なにをグズグズしているの! 早くしないとお前も処刑するぞ!」


 脅しをかけても将軍は退屈そうに欠伸をするばかりです。


「無駄だ。賢い小人達がそのような事態を想定しておらぬわけはなかろう」

「その通り」


 呆れる王様の言葉を赤鼻が繋ぎます。


「筋肉姫の毒を解毒した所であんたをどうにかしなきゃ意味がねぇ。だからワシらはわざわざこうしてやってきたんだ。そうだろう、王子様よ」

「その通りだとも!」


 筋肉姫の乗る豪華な山車から現れたのはハンサムな隣国の王子様でした。


 筋肉姫の生存を女王に悟られぬ為、小人達は隣国に救いを求めました。


 魔法の鏡は他国にもあり、筋肉姫の力自慢は有名です。


 隣国の王様は好戦的な女王が王権を握る事を良しとせず、筋肉フェチの王子様は一目で筋肉姫に惚れてしまいました。


 無垢な筋肉姫に色恋はまだ早いようですが、一途な王子のアプローチは満更でもありません。


 国王も国と大事な愛娘を守れるのなら文句はなく、かくして各々の利害は一致して、今回の大芝居が決まったのでした。


 幾ら女王が国の軍隊の半分を掌握しているとはいえ、相手はもう半分と隣国の全軍です。


 それを知った将軍はあっさり手のひらを返して女王を見限ったというわけでした。


「そんな、馬鹿な……わらわの栄光が……こんな所で終わってしまうのか……」


 愕然として崩れ落ちる女王に軽蔑の眼差しを向けて国王が鼻を鳴らします。


「前女王に先立たれて心身を病んでいたとはいえ、お前のような毒婦を妃にした事は余の一生の恥! 己を誇示する事しか頭にない醜い筋肉馬鹿が! 大人しくお縄につくがいい!」


 醜い筋肉馬鹿。


 その言葉にプライドを傷つけられ、女王は怒り狂いました。


「ファアアアアアアアアアッッッッッッッック!」


 獣のような叫び声をあげると、「こうなったらお前だけでも道連れにしてやる!」と国王に襲い掛かります。


 相手は元国一番の力自慢です。心身を病だ国王ではひとたまりもありません。


 女王がその気になれば、小枝をへし折るように簡単に殺されてしまうでしょう。


 ですがそんな事にはなりませんでした。


 なぜならここには国一番、いいえ、この世界で一番の力自慢にして心優しい筋肉姫がいるのですから。


「お父様ぁ!」


 筋肉姫は男鹿のような脚であっと言う間に山車から山車に飛び移り、国王と女王の間に割って入ります。


 そして怒り狂う女王を軽々と担いで山車の外へと放り投げてしまいました。


「この悪女め!」

「よくも俺達の筋肉姫を!」

「今まで散々好き勝手しやがって!」

「天誅だ!」


 以前から病んだ国王に代わって悪政を敷いていた女王です。


 国民からの評判は最低で、あっと言う間に囲まれて袋叩きにされ、そのまま兵士達よって牢屋送りにされてしまいました。


 こうして筋肉姫は無事にお城に戻る事が出来き、国王も以前の賢王っぷりを取り戻しました。


 七人の小人達は救国の英雄として勲章を授与され、王女付きの名誉騎士の地位を与えられました。


 隣国との関係も強化され、二つの国は共に栄えて平和を謳歌したそうな――


 めでたし、めでたし。

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