マリとマリン 2in1 報い

@tumarun

第1話  勘違い

「お前も物好きだよな」

「えっ、なぁにぃ」 


 日曜日の午前中、翔は1週間分の食材を買うために近所のスーパーマーケットに来ている。横にいるのは茉琳。


「スーパーの買い出しについてくるなんで酔狂だなって」


 朝、窓の外に青空がみえ、車の走行音やら、小さい子たちの声が聞こえ出した頃、スマホから着信音。


「おっはよぅ、翔。何してる? 今日、どっかいくのぅ」


 スピーカーから茉琳のノホホンとした声がしている。


「……お前なぁ。休日の朝からテンション高いのな。まったりと過ごせる貴重な時間帯に電話してくるなんて」

「そうそう、学校の授業ないからのんびりできるねー。だからこそだよ、有意義に過ごさないとだね……」

「俺も1週間分の溜まりごとを捌かないといけないから切るよ」

「えー、それじゃつまんないよぅ、どっか行こうよ、遊びに行こうよ」

「そういうのは、彼氏とか友達と行けば良いだろ。じゃあ…」


 電話口で鼻を啜る音と、


「ヒーくんいないしー、友達いなくなったしー」

「わかったから、泣かなくていいから、なっ」

「ぐすん、ありがと。翔のことすきやしー」

「あーぁ、どういたしまして。て、いうか。食材の買い出しぐらいしか外に出ないよ」


 しばらくの逡巡のあと、


「行く。どこに行くの?」

「近くのノベリスタだけど」

「何時ぐらいにいくの?」

「10時ぐらい」

「ラジャーだね。現地で  ブツッ」


 一方的に通話を切られてスマホの画面をじっと見ている翔。


 翔はスーパーまで徒歩で行く。近隣で10店舗ほどを展開するスーパーノベリスタ。食材の豊富さと肉類の種類の多さで集客も多い。そこの入り口で茉琳は立っている。ブリーチして黄色に染めた髪は疲れたようによれ、プリンもふえている。グレーのフリースのパーカーにパンツ、足元はピンクのレジンサンダルを履いている。


「茉琳、頼むからその服の組み合わせで外に出るのは考えてくれるか」

「えーなんで、あったかくて楽なのに」


 翔は茉琳に近づいて耳打ちする。くすぐったそうに聞いていたのだが、


「えーそんなん。じやあピンクでも」

「そっ、ピンクも」

「ゔー」


 ヴーヴーいう茉琳を連れてスーパーマーケットへ入っていく。バスケットを載せる。ショッピングカートは茉琳に押してもらった。

 まず最初の生鮮野菜置き場から、

 すると茉琳の目つきが鋭くなった。獲物を捉える目になっている。

 

「県が違うと銘柄もちがうんだ」

「トマト、アスパラ、ブロッコリーなんかは、こっちの方が安いかな」

「キャベツが安すぎ、大根は半分でこんな値段なの」

「レタス、サニーレタス」

「あっ海外産、値段も安いや」

「ちょっと、ちょっと茉琳さんや」


茉琳はブツブツと呟きながら、選んだ野菜や果物をポイっと買い物籠へ入れていく。


「誰が食べる分買うの? なんかキャラもかわってるような」


 翔は首を捻っている。


「えっ、しまった。……ごめんねーもどすしー」

「良いよ、丁度買う予定だって。でも茉琳凄いね」

「何が?」

「野菜を見る目が鋭いし、確かに良さそうな時選んでる」

「見間違いだしー、そんな怖い顔できないよーだ」


 2人でそんな話しをしながら、魚コーナーを抜けて肉のコーナーへ移動して行った。

 コーナーの目玉になっているのがステーキ、焼肉用のオープンショーケース。その中を見ながら、


「ねえ、翔。ココに書いてある'ハラミ' はどの部分なの? 字からすると内臓のお肉? ホルモンのひとつかなぁ」

「それはねえ、横隔膜についている筋肉」

「筋肉!」

「そう、筋肉。赤いところは筋肉なんだ」

「じゃあ、白いところは?」

「それ、脂肪」

「じゃあ、この塩がついたみたいなのは」

「霜降りって言うんだよ。美味しいらしいけど脂肪だからほどほどにしないとお腹が大変だことになるよ」

「ポッコリになるんだね」

「そう、ちなみに鶏肉は、脂肪が少ないんだって」

「鶏肉好きなんだ。だからお腹がスッキリ滑らか。ほらほら」


 茉琳は翔の手を取ると自分のパーカーの下に差し込み、お腹の肉をさわらせた。


「茉琳! あれ? 指が肉に埋もれたよ。段々になってる」

「えっ、うそ」


 茉琳は自分のお腹を見ようとしたのかパーカーを前身ごろの下を上に引っ張った。パーカーが捲り上がり、スウェットのワイドパンツ、ポッコリお腹、ミニキャミ、ブラカップまで翔の目の前にお披露目をしている。


「茉琳ん!」


 翔は慌ててパーカーの前見頃を下げた。首を回して周りを見る顔は紅く染まっていた。


「おい、お腹の肉がパンツに載っかっていたぞ」

「ぎゃあー 乙女のピンチですぅ」


 両手をあげて茉琳は叫ぶ。


「鏡で見てくるね。トイレどこぉ?」

 

と、踵を返したところで茉琳の顔から表情が消えた。膝に力が入らず体が下に落ちる。そのまま、ひら座りになってしまった。

 翔もしゃがみ込み茉琳の肩を支えた。程なくして意識を取り戻したのだが表情が暗い。眉も下がり気味。


「私、また」

「気にしない。それより痛いところはないかい」


 茉琳は小さく首肯する。


「よかったなあ、立てるかな」


 再び首肯しつつ茉琳は立ちあがる。


「なんでお腹ポッコリ。お肉も牛さんや豚さん減らして鳥さんメインなのにー」

「ちなみにどうやって食べてるのかな?」

「お店やコンビニでフライドチキン」

「それだね。あげた油がぽっこりの元だよ」

「えー」

「茉琳は脂だらけの筋肉を食べて贅肉にしたと」

「わぁー」


 両手で顔を覆い、しゃがみ込んでしまった茉琳。


「ダイエットしないと、でもいやぁー」


 小さい声でつぶやいていた。




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