転生したら勇者の右腕になりました

寄鍋一人

勇者の右腕になりました

 自衛官の俺は、ただひたすら自分の身体を鍛え続けた結果、寝て食べて訓練と任務と筋トレ、という脳筋と呼ばれそうな人生を送っていた。


 そんな俺は被災地で救助活動を行っている最中に、轟音と一緒に崩れてきた瓦礫の下敷きになり殉職、というなかなか誇らしい命の落とし方をした。


 何もない空間を漂っていると、ふと声が聞こえてきた。


「私はあなたがいた世界とは別の世界の神です。鍛え抜かれてもなお鍛えようとする向上心、自らを省みず民のために尽くす精神。勇者の右腕となる素質と資格があります。転生し、勇者とともに魔王を倒していただけませんか」


 もしかしたら自衛官の知識や技術が活きるかもしれない。


「分かりました。俺にできる範囲ですが、協力します」


「ありがとうございます。では、ご武運を」


 暗転し、視界が戻ると目の前には勇者のものと思われる手が剣を握って魔物と対峙していた。どうやら無事に転生できたらしい。


 というか勇者の右腕に転生って、文字通りの右腕なのか……。


「えっと、君が勇者で合ってる?」


「うえっ!? 俺の腕が喋った!? ……いや、そんなことは今は後回しだ。おい、右腕。ちょっと力を貸してくれ」


 言われるがまま勇者の合図に合わせて思いっきり踏ん張るイメージをすると、勇者の腕は目にも留まらぬ速さで剣を振り、その刃は魔物を一刀両断した。当の勇者は困惑なのか興奮なのか混ざったような表示で、右腕の俺をじっと見る。


「おいおい……、今までこんな速さと威力出たことないぞ。お前、何者なんだよ……」


 神様に言われたことを説明すると、勇者は目を輝かせる。


「俺たち、相性良いんじゃないか? 初めてなのにあんな強いんだ。これからも俺の右腕としてよろしく頼むぜ」


 元々そのつもりで来たが快諾も面白くないので、交換条件で筋トレして俺を鍛えてくれと頼むと、嫌そうに文句を垂れていた。


 魔王討伐はまだまだ先になりそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生したら勇者の右腕になりました 寄鍋一人 @nabeu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説