イタミ

ミウ天

アトノノコラナイキズ

 痛みは続く。続く。

 身体中のあちこちを走り巡っては、また戻る。

 そのダメージに思わずくずおれてしまった。

 立ち上がることができない。まるで身体の中から、針を刺してくるような、鋭い痛みが起きている。

 ずきん、ずきん、と、そんなベタな擬音が頭の中で聞こえる。

 永続ダメージは続く。痛みが走る度に、力が抜けていく。そうしてその場にただ縛りつけられていくのだ。

 それでも立ち上がろうと手足に力を込める。びきびきとヒビが入るかのように、その支えを震えさせる。

 なんとか身体を起こして体勢を変えると、今度はジクジクと身体の奥の方からも鈍い痛みが感じ取れた。

 身体全体の痛みは、未だ続いていく。上手く身体が動かせない。

 しかし、謂わばこれは勲章のようなものだ。

 自身が研鑽と努力を積み重ね、その身体の真価を生み出すために、自ら鞭を振るい続けた。

 半ば自傷とも言える行為を行い続ける。言ってみればそれは、水晶を磨く。あるいは刀を砥石で研ぐように、鋭利に鋭敏にその力を開放させる為の儀式のようなものだ。

 その修行に伴い、得ることのできた痛みを誇らしく思う。

 傍らにある容器を手に取り、ドロリとした液体をそのまま飲み干して身体に馴染ませる。

 傷はやがて時を携えて回復に向かう。その時には一回り大きくなった姿を見せられることだろう。

 それは一種の美術工芸品を作るかの如く、人の生み出せる美を構成させる。

 そうして日々繰り返し、私は修験僧のように、霊験あらたかとも言えるであろう人の神秘をその体に宿すことになる……予定だ。

 これでなんとか間に合うだろう。

 壁に掛けてあるカレンダーに目を遣ると、今日から数えて1週間後の日付に花丸が描かれている。

 あの日になれば、私はその身体を人々の前に晒す事になるだろう。

 ふと私は妄想とも呼べる私の理想を想像しながら、



















 こうして私は、努力の結晶である『筋肉痛』を愛しく思い耽るのであった。

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イタミ ミウ天 @miuten

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