異世界転生と筋肉

玄栖佳純

第1話 ムキムキ筋肉に憧れていた美少年

 病弱な薄幸美少年が異世界転生をした。生前の行いが良かった美少年は、健康な身体を手に入れた。


「次のボクの願いは、筋肉ムキムキのおっさんになること!」

 転生しても美少年だった少年は、愛らしく叫んだ。微笑ましい様子だった。

 父は賛成したが、母と姉は大反対だった。


 少年は諦めなかった。筋肉の塊のような父に励まされ、12歳の春、少年は戦士を選んだ。


 戦士の訓練は大変だった。それまでは家族に守られていたが、少年はやはり非力だった。短剣すらまともに振るうことができない。まるで前世の病弱さが蘇ってしまったのかのようだった。


「ボクはもう健康なんだ。あの頃の病弱には戻らない」

 そう思っても、非力なのは変わらなかった。


 母と姉は魔法使いに転職することを勧めた。彼は賢かったので、魔法使いになることもできた。彼の愛くるしい外見だと後方で魔法を使うのがふさわしかったが、彼は前面で戦いたがった。でも、皆の盾になるには小さすぎた。


「焦らなくてもよい。成長すれば、お前の望むムキムキ筋肉が手に入るだろう」

 父はそう言ったが、少年には信じられなかった。

「前世のボクが嫉妬して、ボクに筋肉を付けさせないようにしているのかもしれない」

 そんなことまで考えるようになってしまっていた。


 しかし、彼は視点を変えた。彼の才能は魔法でも筋肉でもなく、瞬時に敵の弱点を見つけてそこを攻めるえげつなさだった。彼は最小限の動きで最大限の攻撃力を発揮する天才だった。


「てこの原理を使えば小さな力でも大きな破壊力が得られるし、武器の手入れをすれば巨大なモンスターでもさばける」

 それは彼が病床で得た知識のおかげだった。そこにムキムキ筋肉は必要がなかった。


「自分に合った力を手に入れよう」

 そう考えるようになり、剣も魔法も使った素早い攻撃を心がけ、晩年は勇者と呼ばれるようになった。


 そして、その頃は筋肉ムキムキになっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転生と筋肉 玄栖佳純 @casumi_cross

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ