筋肉の求道者~これで俺はモテモテだ!

kou

筋肉の求道者~これで俺はモテモテだ!

 朝の登校時。

 東雲ししのめ謙吾けんごは親友の取手とりで行彦ゆきひこを見かけ、あいさつをする。

 だが、行彦は返事をしない。なぜなら水筒に口をつけて飲んでいたからだ。

「行彦。何飲んでるの?」

 東雲の言葉に行彦は口元を拭って答える。

「プロテインだよ」

 謙吾としては別に驚かない。シュートボクサーでもある二人は、日頃からトレーニングをしているのだ。

 プロテインを飲むことぐらいあるだろうと思っていた。

 しかし、行彦は続けて言う。

「俺は今日から飲み物は全てプロテインにする」

 謙吾には理解できなかった。

「どうして?」

 そして行彦は言った。

「モテるためだ。300人の女性アンケートの内、209人。70%の女がマッチョが好きと答えているんだぞ」

 この日から行彦の筋肉人生が始まった。

 授業中も休み時間も関係なくプロテインを飲み続け、筋トレに励み続ける。

 その行為はマトモではなかった。

 口の端からプロテインを溢しながら飲む様は、薬物中毒者のようだった。

 結果、行彦の肉体はマッシブになっていき、見違えるような体格になっていた。

 さらに悪いことに、行彦の行動を見た女子生徒の間で、行彦のことをカッコいいと言い出す者まで現れ始めたのだ。

 それが行彦の行為を加速させる。

 そして、次の中間テストで行彦は学年最下位になる。

「なあ。謙吾、九九の2かけ2はいくつだ?」

 いきなりの問題に謙吾は答えられなかった。

「の、脳みそまで筋肉化してるのか!  2かけ2は4だろ!」

 謙吾は思わず叫んでしまう。

 しかし、行彦はまったく動じなかった。

 むしろ誇らしげに胸を張る。

「……ふっ。知ってたさ。謙吾を試しただけだよ」

 そう言って笑う行彦を見て、謙吾は質問する。

「じゃあ9かける9はいくつ?」

 すると行彦は、少し考えて答えた。

 それも自信満々に言い放つ。

「17」

 それを聞いた瞬間、謙吾は自分の負けを悟った。

 行彦は、すでに学力すら失っていた。

 それでも行彦は満足げだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

筋肉の求道者~これで俺はモテモテだ! kou @ms06fz0080

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ