第19話 王妃の思惑







王宮に着いた私は、謁見の間ではなく王妃の私室に案内された。


部屋の中はかなり広く、華美になり過ぎないセンスの良い調度品が飾られ、大きな窓らは王都が一望できる。



景色の1番良い場所に置かれたテーブルを前にマーナレスが座り、優雅に紅茶を啜っていた。




部屋に来た私を見ると微かに笑みを浮かべ、自分の前に座るよう手招きをして来た。





通常、王宮が個人的に来客をもてなす場合、別室か茶室が一般的であり、私室に案内されることはないため、私は警戒しながら席に座った。





「そんなに警戒なさらないで」




そう言いながらマーナレスは、自身で私の前にセットされているティーカップに紅茶を淹れてくる。


メイドもおらず、人払いは抜かりがないようだ。




ティーカップを手に取ると、淹れてもらった紅茶を啜る。

毒を警戒すべきとこだが、神の加護を持った私には通用しないため、迷わず飲んで見せた。





「ふふふ。毒でも入っているのでは?と、飲んでいただけないと思いましたわ」



「いいえ。王妃様直々に淹れていただいたお茶を疑う訳ありません」



「そう。流石、近衛兵を簡単に屠るだけあるわね」



「今日は、その件で呼ばれたのでしょうか?」





マーナレスは笑顔のまま紅茶と共に用意されていた小菓子を口に運ぶ。





「そうね〜。関係なくはないかしら。あっ、勘違いしないでね。デュエルに関しては正規の方法だし、何も言うことはないわ」



「デュエルでないとすると、他に近衛兵で関係する話があったでしょうか?」



「あなた、近衛の騎士団長、シルバを唆したでしょう?」



「唆した!?」






確かにデュエルの際、近衛騎士団長のシルバと話したことは記憶している。

だが、唆したとはどういう意味なのだろうか。





「あっ!!」




デュエルの時の事を一つ一つ思い出して行くと、合点がいったやり取りがあったため、思わず変な声を上げてしまった。



デュエル終了後、近衛に足りていない部分を説明した際、シルバにこう言った。





【お前さえ本気なら、私の所に来い】





勢いとはいえ、確かに唆しているな。







「思い出したかしら?それでね、シルバと他の騎士29名、併せて30名があなたの指導を希望しているのよ」



「いや、申し訳ない」



「私としては、別にいいのよ。騎士が強くなるならそれで」



「寛大なお言葉、感謝します」



「硬い口調ね。まあ、いいわ。シルバ達には偶にでいいから訓練に付き合ってあげてね」



「はい」




ふぅ〜、とマーナレスは息を吐くと、紅茶を一口啜って口を湿らせ、テーブルに両肘を着き、前のめりになって私を見つめて来た。





「この話は終わり。私が今日、あなたを呼んだのは、他に聞きたいことがあったからよ」




王族独特の何ともいえない威圧を感じ、思わず体を引き、距離を空ける。






「アルネミナちゃん、あなた、12歳なのになぜ魔法が使えるのかしら?」



「・・・」



「成人の儀式、受けてないわよね?」



「・・・」





昨日のデュエルで私は確かに【アップ】の魔法を使った。

たが、無詠唱であり、観覧席から見ていただけのマーナレスに気づかれずはずはない。


近距離で見ていたシルバですら気づいた様子はなかったのだ。






「幼少より剣と魔法を学んでおり、ある時、偶々魔法が発動したのですよ」



「ふ〜ん。それを、信じろと?」



「ええ」



「何かしらの加護があるんじゃないの?」



「成人の儀式前で、加護については分かりません・・・」





マーナレスの鋭い追求に、平静を保ちつつ何とか回答する。

マーナレスが信用に足る人物か分からない内は、本当のことを話すのは危険だ。





「まっ、いいわ。だけど、お願いがあるの」



「何でしょうか?」



「この国に手を出さないで。手を出さないならそれでいいわ。約束できるかしら?」





この国に手を出さないで





どういう意味だろうか?



デュエルで私の力を見ているのであれば、『この国を助けて』と言うのではないだろうか?


もしくは、私の行動が敵対と見れれていて、『国を害するな』という意味なのだろうか?





どちらにしろ、私はこのライアスノード王国を助けるつもりも、直接害するきもない。


だから、嘘偽りなく答える。






「約束します。このライアスノード王国にはどういった形でも手を出しません」



「ふふっ。アルネミナちゃんがお利口さんでよかったわ。素直な子は好きよ。嫌だとか言われちゃったら、神官長を連れてきて無理矢理鑑定するところだったわ」




マーナレスは満面の笑みでそう言うと、窓の外に広がる王都を見つめた。

その横顔は重要な話が終わったことからの安堵感からか、とても穏やかに見えたが、不自然に口角が上がっていることに気づく。





「あら、やだ。私ったら、つい安心してしまって変な顔をしていたかしら?」



「い、いいえ。そのようなことは」




マーナレスは誤魔化すように言った。

顔は笑っているが、目は一切、笑っていない。





「そうだったわ。もう一つ。アルネミナちゃんは、うちのエメルソンと結婚する気はないんでしょ?」



「そ、それは・・・」





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今話題の悪役令嬢(婚約破棄前提)に、元Sランク冒険者の女剣士が転生するお話 〜神様との約束で、婚約破棄された国は見捨てます〜 いそゆき @jamp0217

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