第18話 王宮からの手紙
デュエルを行なった翌日、私は王都にある屋敷で侯爵令嬢のレナリア、専属護衛のマフレアを迎えていた。
応接室のソファーに座るレナリアとマフレアの後ろには、メイド服を着た3名の女性が立っている。
「その女性達は、私がお願いしていた件かな?」
「そうよ。侯爵家でも特に信頼できるメイドの3人。ある程度の事情はなしてあるわ」
「そうか。礼を言う」
王都に来て僅か数日だが、秘密を共有したことでレナリアの口調はだいぶ砕け、共と呼ぶに相応しい話し方になっている。
それがとても好ましく、思わずフッと軽く笑ってしまう。
「何か面白いことでもあったかしら?」
「いや、レナリアも随分砕けた話し方になってくれたと思ってな」
「それはそうよ。2,000万人が生きた人じゃない、3年以内に帝国へ亡命、畏まってるのがバカらしくなっちゃったわ」
「私としては、この方が話しやすいから助かるが・・・」
そう言って、私は後ろに立つメイド3人を見る。
忠誠心の高そうな表情と、まだ腑に落ちていないキリッとした目つきが窺える。
侯爵家のメイドから突然、誰もいない辺境伯の王都邸を管理してくれと言われれば当然だろう。
だが、私は帝都での魔物討伐もあり、常に王都にいることはできないため、留守中の屋敷の管理、訪問者の対応を誰かに頼まなければならなかった。
さて、このメイド3人の心をこちらに引き込まなければな。
「それで3名の方達は、この王都邸を任せることに不満はあるかな?」
「滅相もありません。レナリアお嬢様の決めたことであれば、従うまでです」
1人のメイドがそう言うと、他の2名は頷き肯定を示す。
私はソファーから立つと、この中で位が高いであろう最初に発言したメイドの前に立つと、右手を差し出した。
この国でも友好を示すため、握手を交わす習慣はあるため、メイドの女性は自分の右手を迷わず私の右手に重ねてきた。
その瞬間、これまでポーカーフェイスだった女性のこめかみ部分が僅かに動いた。
「レナリアとマフレアにお茶を出していなかった。申し訳ないが、用意してくれるかい」
「畏まりました。我が主、アルネミナお嬢様」
女性は一礼をすると、応接室を後にする。
レナリアとマフレアは呆けた顔でその背中を見ていた。
続いつて、私は他の2人のメイドとも握手をすると「君達もお茶の準備を手伝ってあげて」と言った。
「畏まりました、お嬢様。他にも何なりとお申し付けください」
「喜んで、アルネミナお嬢様」
2人は笑顔で部屋を出て行く。
「アルネ、一体どんな魔法を使ったの?いくら忠誠心が高い3人でも・・・、本当は今朝、レナリアお嬢様の元を離れたくないと泣きつかれたんだけど」
「アルネ様。私も驚いてます。何をしたのですか?まさか、魅力の魔法!?」
「ふふっ。違うさ。大体の人が1番好きなものを与えただけさ」
「「???」」
レナリアもマフレアも全く検討がつかないと、首を仲良く傾けている。
私がしたことは至極単純だ。
握手した際、硬貨を握らせた。それだけだ。
ただ、普通の硬貨であれば、メイドは反応を示さなかっただろう。
手に握り締めただけで思わず顔に反応が出てしまう程の硬貨、それは白金貨の上位の貨幣、『王金貨』。
銅貨、銀貨、金貨、白金貨の大きさはそれほど変わらないが、この『王金貨』だけは一回り大きい。
『王金貨』を見たことがなくても、握りしめれば分かるはずだ。
因みに、『王金貨』は白金貨の10倍の価値があり、平民の年収の約3倍を意味する。
文字通りお金で態度が変わるのは現金かもしれないが、私としては扱いやすくて助かる。
カコカコカコカコ
「馬車の音ね」
「そうみたいだな。屋敷の前に止まったか」
レナリアにお金の話をしようと考えていると、屋敷の前に馬車が到着した。
「アルネミナお嬢様。王宮からの遣いの方がこちらをお届けにまいりました」
「手紙?」
メイドの1人が王宮の遣いから預かった手紙を手渡してくる。
「それと、伝言が。返事を馬車の中で待つ、だそうです」
「何やら、嫌な予感しかしないな」
私は溜息を吐きながら手紙を開封すると、送り主はマーナレス・ゼロ・ライアスノードと書かれていた。
マーナレスはこの国の王妃であり、あの馬鹿王子エメルソンの母親だ。
昨日の謁見の間、デュエル中も他と比べて反応を示さなかった人物。
そんな王妃から送られた手紙の内容は簡単で、『今から王宮に来るように』だった。
私は先程よりも大きな溜息を吐くと、レナリアとマフレアに謝りを入れ、王宮へと向かった。
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