第17話 聖女と勇者とされる殺人犯
▷▷▷▷ミツカ・スエナガ◁◁◁◁
半年前、私は日本の刑務所で下らない刑務作業を行なっていた。
高齢男性を騙し、保険金を手に入れるために4人を殺した。
まだ20歳で若く美貌を持った私と少なからず関係を持てたのだがら、殺されお金を搾取されても感謝して欲しいくらいだ。
なのに、なぜ私がこんな作業をしなければならないのか・・・。
同じ作業着姿の女達を見つめて忌々しく溜息を吐いた瞬間、気づいたらこの世界に来ていた。
同じ服装で刑務作業をしていた人間はいなくなり、代わりに華美な服を着た男と横たわるローブを着た100近い死体があった。
私は直ぐに分かった。
ここが異世界であると。
華美でいけ好かない男が私の前に跪き、手を差し出してくる。
「私は、ライアスノード王国王子、エメルソン・ゼロ・ライアスノードだ。聖女よ、よくぞ参られた」
不思議と初めから言葉は分かった。
それにしても、日本では『悪魔』と呼ばれマスメディアの注目を集めた私が『聖女』とは・・・。
笑いを堪えながら素直にエメルソンの手を取ると、腰に手を回され思わず顔を顰める。
「離れてくれる」
「こ、これは失礼・・・。しかし、流石は聖女だ。この国に言葉が話せるとはな」
自分でも驚いたが、馴れ馴れしいエメルソンに苛立ち、思わず日本語の感覚で発したら話せていた。
「チート、かしら」
「ちーと?」
「何でもないわ。それで・・・」
言葉が話せたことよりも驚いたのは、私の他にもう1人、男が召喚されていたことだ。
男はどうみても日本人で、ボサボサ頭に前歯は抜け、清潔感の欠片もないやつだった。
それと、男女の違いはあれど、私と同じような作業服を着用している。
まさか、ね。
「おい、この男は何だ」
「分かりませんが、もしかすると伝承の勇者かもしれません」
「真か!!そうならば快挙だぞ。たかだか高位魔法使い100人の命で聖女と勇者が召喚できたのだからな」
「・・・そう、ですな」
エメルソンの発言に、倒れている者達とは異なる紺色のローブを纏った男は苦々しく答えた。
だが、エメルソンにはその苦々しい顔が見えていないのか、表情を綻ばせてなおも喜ぶ。
「明日、神官長のクラナダを呼べ。2人の素質を見る」
「畏まりました」
そこまで話すと、私はエメルソンに連れられ広々とした豪華な部屋に案内され、世話係のメイド5人で身の回りのことを何でもしてくれた。
刑務所では入れなかった湯船にゆっくりと浸かり、メイドに全身を洗ってもらい、喉が渇いた言えば飲み物を口まで運んでくれる。
こんな暮らしができるなら、いけ好かないエメルソンに従うのも悪くないかもしれないわ。
その日は夢見心地のまま眠ると、翌朝、朝食が終え、メイド達にドレスを着付けしてもらったタイミングでエメルソンが部屋にやってきた。
「美しい」
「ありがとうございます」
この暮らしのためにも、まずはエメルソンには素直で清廉な女を演じることにする。
日本にいた時から演じるのは得意だったのだがら、造作もない。
「昨日は聞けなかったが、名は?」
「ミツカ・スエナガです」
「ミツカ・・・。良い名だ。それにしても、ミツカが婚約者であればよかったのにな」
「お、恐れ入ります」
婚約者という発言に驚いてしまうが、何とか言葉を返した。
その後、王宮内にある教会に移動する間に聞いたのたが、婚約者は傍若無人で我儘放題、魔物を食い止める辺境という重要な領地の令嬢という理由だけの政略結婚だと分かった。
ならば、エメルソンを転がせばいくらでも私に振り向かせ、婚約者を邪険にすることも可能だ。
思わず癖である口の端を上げてしまった時、昨日の日本人と教会で鉢合わせた。
「お前、悪魔のスエナガミツカだろう。くっははは!!有名人とこんなところで会えるとはな」
男は私を指差して馬鹿笑いする。
私同様、身綺麗にされており、昨日よりはましになっているが、それによって気づいてしまう。
この男は、連続女性殺人の犯人、サズナカマナブだ。
「まさか、サズナカマナブなの?世の中を震撼させたあの殺人鬼」
「嬉しいね。有名人に知ってもらえるとはね」
「ミツカ、何か気に障ることを言われてないかい?」
「ええ、大丈夫です」
サズナカの下衆の顔を見て、エメルソンが声をかけてきた。
私とサズナカは日本語で話していたため、周りに会話の内容はバレていないが、この男、早い段階で味方にしなければ厄介だ。
「ならいいが。では、我が国の神官長クラナダが来たから早速見てもらおう」
「・・・は、はい」
クラナダは目の前に水晶玉を差し出すと、私に触れるよう言ってくる。
恐る恐る水晶玉に触れると、クラナダがこめかみが僅かに動き、安堵とも落胆とも言えない表情を浮かべた。
「クラナダ、どうだ」
「はい。聖属性魔法の適性があるようです」
「おお、それは上々だ。加護は?神からの加護は何なのだ?」
「・・・、加護は、ありません」
「そ、そうか・・・」
エメルソンは明らかに落胆した。
これは、早めに籠絡し、味方につけなければまずいかもしれない。
次に、サズナカが水晶玉に触れると、神官長のクラナダの顔は真っ青になり、一気に汗が噴き出した。
サズナカが私より優れた能力を得たのか?
ならば、エメルソンよりも流石にこいつを味方にしなければならない。
「な、何もありません。加護もスキルも、魔法の才も・・・」
「な、何だと!!」
サズナカは言葉が分からずニヤニヤしたままだが、明らかに教会内の空気が代わり、配置さている騎士達の距離が近くなる。
「役立たずが。そうか、予想外の貴様が召喚されたことで、聖女の能力が落ちたのか!?」
エメルソンは子供のように地団駄を踏むと、サズナカを激しく睨んだ。
「殺せ!!」
エメルソンの言葉に騎士達がサズナカに近寄ると、剣を抜き、同時に背中や腕、足、頬を突き刺した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」
私の認識では、こういった世界では一気に首を刎ねると思っていたのだが、騎士達は直ぐに死なない箇所を攻撃した。
死なないとはいっても、即死しないというだけで、苦しんで最後には死ぬ。
「た、たじゅけて・・」
頬を突き刺され、上手く話せないサズナカは必死に私に命乞いをしてくる。
死ぬ間際の人間や死体など見慣れているため、サズナカの命乞いには何も感じないが、いつ私もこうなるか分からないと思うと、自然と後退りしてしまう。
それをエメルソンは私が恐怖から後退りしたと勘違いし、騎士達に再度命じてサズナカは目玉を刺された。
これが、私がサズナカを見た最後。
私はその日中にエメルソンを籠絡してベッドに誘い込み、夜を共にした。
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