第16話 圧倒







聖女の変貌ぶりに動揺を見せる王族達を無視し、私は謁見の間を出て近衛騎士の訓練場に向かう。



私自身は初めてだが、昔の私が場所を知っていたのであろう、迷わずに着くことができた。



私の訪問に100名近い近衛騎士は騒めき、剣を振るう手を止めた。






「ここは近衛騎士の訓練場だが、どのようなご用件で?」



近衛騎士の中の1人、胸元に勲章の証を携えた者が私に近づき、話しかけてくる。





「『デュエル』、と言えば分かるか?」



「『デュエル』!?何のことだ?」





騎士は本当に心当たりがないようで、驚きを素直に表した。



このタイミングで、ようやく国王、王妃、王子、聖女が私を追ってやって来る。





「こ、国王様・・・」





近衛騎士全員がその場に跪く。




「表を上げよ。エメルソン、近衛騎士団長シルバに『デュエル』書を渡せ」



「はい」




私に話しかけてきたのは、近衛騎士団長だった。

エメルソンは言われたと通りに『デュエル』書を渡すと、それを読んだシルバの顔が青ざめる。





「王子、これは一体・・・」



「そのままの意味だ。早く名が書かれている近衛騎士10名を呼べ」



「し、しかし・・・」




シルバは何かを言おうとしたが、王族が勢揃しているこの状況に憚ったようだ。


苦々しい顔で10名の騎士の名前を呼ぶと、不遜な態度をした騎士達が私の前に並ぶ。



どうやら、この10名は『デュエル』のことを知っていたらしい。

裏で王子から声をかけられ、金でも握らされたのだろう。





「本当にくるとはな。バカな女だ」


「けど、なかなかの上玉だ。この女を好きなようにしていいなら、悪い話しじゃないな」




小声で話しているつもりらしいが、神の加護によって基礎能力が上がっている私の聴覚には、しっかりと声が届いている。





「近衛騎士団長シルバ、後はお前がしきれ。私達は観覧席で見ている」



「・・・は、はい」




エメルソンがそう言うと、王族と聖女は少し離れた観覧席に移動し、シルバと10名以外の騎士は訓練場の隅に移動した。



私は【空間収納】から剣を取り出すと、腰に装備する。

近くでそれを見ていたシルバは刹那固まるが、私がただの貴族令嬢ではないことが分かったらしい。





「あの10名は半端者だが、実力はある。気をつけろ」




シルバは私の武器を確認する振りをしながら、こっそり耳打ちをしてきた。

私は声には出さず、目線だけで「問題ない」と伝える。





「それでは、『デュエル』を始める。なお、赤紙となるため、勝敗は降参するか、戦闘不能になるまで続く」



「最初は俺だ。くくく、俺で最後だけどな。一応、名乗っておくか。俺は・・・」



「必要ない。下衆の名は覚える気はない。それに、直ぐに死ぬのだからな」



「この女・・・。後で屈服させながら可愛がってやるよ」




半端者と言われるだけあり、騎士なのか盗賊なのか違いが分からない。

こちらとしても、殺すのに全くの躊躇いがなくなり、助かるのだがな。





「始め!!」



「おりゃぁぁーーー!!」




シルバの開始の合図と共に、騎士が猛然と私に走り寄る。




「遅すぎる」




私は剣を抜くと、横一線に振り抜いた。






ザンッ






騎士の体は、私の左側に倒れ、頭は右側に落ちた。





「はっ??な、何が起こった!!」



観覧席にいるエメルソンが大声を上げるが、反応するものは誰もいない。



目の前で見ていたシルバですら、私の剣は捉えられておらず、落とされた首を呆然と見つめている。





「やはり、近衛もこんなものか・・・。面倒だ。全員で来い」




私の言葉に、残りの9人は先程までの余裕はなく、額から汗を流して後退りを始める。






そんな騎士達に、私は力の一端を解放する。



身体中の魔力を集めると、私の体を白銀に輝くオーラが纏う。

あまりのオーラに訓練場が揺れ出し、騎士達はその場に尻もちを着く。






【アップ】



【アップ】



【アップ】



【アップ】






更に私は身体強化の魔法を重ねがけする。






「リシャルソン国王、エメルソン王子、あなた方の愚かな策により、これから失う命をしかと見るがいい」



観覧席を睨みながらそう言うと、国王も王子も真っ青な顔で震え上がっていた。






「ま、待ってくれ、降参・・・」





ザンッ






降参を宣言しようとした騎士の首を迷わず刎ねた。






「戦いを挑んできたのはお前達だ。降参など認めない」






恐怖に慄く騎士達に向けて、超スピードで移動すると残り8人の首を次々と刎ねた。




この速さで斬られれば、痛みを感じなかっただろう。


どのみち、3年後の【成人の儀式】を過ぎればお前達は魔物に殺される運命だ。

苦しまずに死ねたことを、あの世できっと感謝するだろう。






目の前で起きた惨劇に、訓練場は沈黙に包まれるが、それを破ったのはエメルソンだった。


空気を読まない、読めない力もここまでくるとある意味立派なものだ。






「な、なぜだ!!ただの辺境伯令嬢がなぜここまで強い!!」




辺境伯を守る貴族として、例え令嬢であっても剣の訓練は受ける。

だが、12歳の令嬢がここまでの力を得ることは通常ではないだろうから、エメルソンの疑問も当然だ。



それに、訓練を受ければ強くなるものではない。

この騎士達には、圧倒的な足りないものがある。





「・・・、す、すまない、俺も知りたい。教えてくれないだろうか。なぜ、そんなにも強いのだ。我らの方が訓練時間は圧倒的に多いはずだ。なのに・・・」



「シルバといったな。確かに、訓練はお前達の方がしているだろう。私の前世を含めても」



「ぜんせ?」



「いや、何でもない。お前達には足りないものがある。圧倒的にな」



「そ、それは一体?」





シルバは先程訓練場が揺れた時に倒れたままで、今は両膝を着いた状態で私を見上げ、教えを懇願してくる。





「実戦だ。それが圧倒的に足りていない」



「実戦・・・、しかし、それならば護衛などで」



「ぬるい。辺境ではな、多くの魔物と盗賊が虎視眈々と命を狙ってくるのだ。朝も昼も夜も関係なくだ。近くの街までの一時の護衛など何になる?それに、態々、王族を狙うものはそういまい」



「・・・!!」





シルバは腿の上で拳を作ると、強く握りしめた。





「お前さえ本気なら、私の所に来い」





それだけ言うと、シルバの反応を待つことなく、観覧席に向かう。





「『デュエル』は終わったので、私は失礼する」



「ま、待て!!」




エメルソンが私の肩を掴もうとしてきたので、スッと簡単に躱すと、反動で地面に倒れたエメルソンを見下しながら言う。





「次は、近衛全員、いや、王都にいる騎士全員との『デュエル』でも構わないぞ」



「ひっ、、、」




エメルソンはガタガタと震え上がると、恐怖のあまり失禁した。



そんな様子を憎悪に満ちた顔で見ている聖女に対し、私は耳元で呟いた。





「同郷の勇者のように殺されないように・・・」





狼狽える聖女を余所に、私は訓練場を後にした。





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